第3話憤怒の法剣

「ほらほら、早く早く」


 俺たちは、リリアと共にクエストに来ていた。受諾したクエストは、マンティコア討伐で、マンティコアを10体討伐すればいいらしい。さらに、マンティコアの牙を50本集めるクエストも受けているので、マンティコアを狩るだけで二つのクエストを完了できる一石二鳥なのだ。


「ほら、いたわよ。じゃあカイジュよろしくね」

「おう。任せろ」


 前に出ると、赤い体つきのマンティコアがいた。マンティコアというのは、翼が生え、尾が蛇の獅子だ。


「グラアア‼」


 マンティコアが雄叫びをあげながら突進してくる。俺は剣を抜き、咄嗟に右に回避した。俺が回避すると、マンティコアはくるりと向きを変え、もう一度突進してきた。


「ガアアア‼」

「ッ‼」


 俺は、憤怒の法剣と左手に水の魔力を集中させた。そして、マンティコアが俺の前に来るタイミングを見計らって、剣を握る右手と、左手を合わせ、固有魔法を発動した。


「喰らえ‼『ザ・シャーク』‼」


 剣先から、青い光が放たれ、マンティコアの体の中心部に来たとき、鮫の牙のような光が突き刺さった。


「グアアア‼」


 マンティコアは絶命した。


「す、凄い‼今のって、法剣でしょ‼ってことはカイジュの職業は『法皇』なのね」


 法皇という職業は、魔法剣士職の最高位とも言われており、法剣という武器を扱える唯一の職業だ。大変珍しく、持っているものは少ないという。


「凄いわね。それに、あなたの剣、一体何でできているの?黒い金属なんて見たことないわよ。それにその鞘も、赤い装飾も金属でしょ。なんなの?」

「確かに俺も気になるな。昨日はそんなの持ってなかったしな」

「うぐっ。お前そんな余計なこと言わなくていいんだよ。別に俺が創ったんだからいいだろ」

「え⁉カイジュは武器を造れるの?今度私にも造ってよ」

「はあ。俺がやるのはオーダーメイドだけだからな。素材と金はちゃんともらうぞ」

「別にいいわよ。ならちゃんといいもの造ってもらわないと困るわね」

「まあそんなどうでもいいことはおいといて、その剣と鞘の素材を教えてくれよ」

「どうでもよくないし‼でも素材は気になるわ」


(随分仲がいいことで。さて、どう誤魔化そうか。つーか、レント口軽すぎだろ。)


「しょうがない。教えてやるよ。ただし――」


 と、いいかけて、リリアとレントの後ろのマンティコア二体を憤怒の法剣で切り殺してから、


「クエストが終わったらな」

「「なっ⁉」」

「お前らほんと息ぴったりだな」

「「ちゃうわ‼」」


 死んだマンティコアを剥ぎ取り、牙を集めた。三体で総数24本だった。


「凄いわね。法剣技を使わずに一気に二体も倒しちゃうなんて」

「その、法剣技って何だ?」

「お前、そんなことも知らないのか‼」


 角いう俺も知らないけどな。まあどうせリリアが説明するだろうけど。


「法剣技っていうのは、法剣固有の魔法のことよ。さっきカイジュが使ってた『ザ・シャーク』っていうのもその一つかしら」

「ああ。ちなみに『ザ・シャーク』は、水属性魔法だな」

「じゃあ、剥ぎ取りも終わったんなら、他のマンティコアを探しにいこうぜ」


 そう言って、俺たちはマンティコアのすむ山の奥深部へ入っていった。


「うわああ。洞窟内に鉱石が露出してるわ」

「ほんとだな。あの銅色の金属は、オリハルコンだな」


 まあ、『神眼』で見たまんまのことを言っただけだが。


「ふーん。おい、そこにマンティコアの群れが居るぞ。目測、十体はいるな」

「じゅ、十体⁉」

「どうかしたのか、リリア?」

「十体の群れなんてSランク冒険者が戦うレベルよ」


 見る限りだと、マンティコアは赤い『クリムゾン・コア』と呼ばれる火属性のマンティコアと、青い『グランブルー・コア』という水属性の二種類がそれぞれ五体ずついた。


「さて、あれを殺ればクエスト達成だな」

「ああ。マンティコアの肉は旨いらしいぞ」

「そりゃ楽しみだな」


 俺とレントは、冗談を交えながら前に進み出た。


「えっ⁉あなたたち、あれと戦うつもりなの⁉」

「ああ。だけど、リリアには死んで欲しくないから、そこで見ててくれ」

「おい、カイジュ。どうする?」

「そうだな。まだお前やってないし、ハンデだ。お前が武器を出して一体目を攻撃し始めたところで俺が始めるよ」


 自分で言ってるけど、ハンデって何だよ。まあ、俺にはまだまだ法剣技があるから、そんなの余裕だけどな。


「へえ、随分余裕じゃねえか。じゃあ、早速いかせてもらうぜ‼」


 レントは、声をあげながら正面へ走りだし、武器を召喚した。


「あ、あれは何⁉」

「ん、リリアには見せてなかったな。あれはあいつの武器、『焔剣レーヴァテイン』だ。焔を纏う大剣だ」

「す、凄い」


 レントの武器について話している間に、もう一体目を倒してしまったようだ。


「さてと、そろそろ俺もやるか」


 俺は、憤怒の法剣を抜き、刀身に火の魔力を込めた。あまりの熱量に、刀身が紅く光っている。そして、その剣で横凪ぎに空を斬った。


「『イフリート』‼レント‼避けねえと知らねえぞ‼」


 剣から紅い紅い、熱の塊が放たれた。一閃となってマンティコアの群れへととんでいった。


「うおっと、危ねえ‼」


 直後、マンティコア九体に直撃し、マンティコアの体を溶かした。


「おい、カイジュ‼あぶねえだろうが‼」

「だから直前に避けろっつったろ」

「す、凄過ぎでしょ」


 リリアはその場にだらしなく経垂れ込んでいる。


「い、今のは、い、一体⁉」

「ん、これは俺の剣の法剣技の一つ、火属性魔法『イフリート』だ。温度100,000度をこえ、全てを溶かす」

「だからあんなに自信があったんだな」

「まあな。それに、この法剣自体の攻撃力も相当だし、余裕かな」


 そんなことを言いながら、俺たちは街へ戻った。だが、俺たちが街へ戻る最中......。




「おい、こりゃ一体何があったんだ」


 冒険者の一人、ダズ・リューメンが言った。辺りは、神滅級魔法で焼き尽くされたかのように、ドロドロに熔けていた。


 ちなみに、魔法にはその強さごとにランクがある。下から順に、下級魔法、中級魔法、上級魔法、超級魔法、絶級魔法、そして神滅級魔法だ。上級魔法までは一般人でも修練を積めば、会得することができるが、超級魔法以上は誰かに教えを請うたり、ユニークや、才能でしかめざめない。その為、使えるものは全くおらず、神滅級魔法を扱える者は、世界に1十人いるかいないか位らしい。


「もうこんなの天変地異だぞ」


 仲間の一人が言った。彼らは、この場所の調査に来た冒険者のパーティーで、ギルドではかなり有名な方だ。


「急いでギルドに帰るぞ‼」


 そして、彼らは報告のためにギルドへ急いで帰っていった。




「では、確認するので、部位とギルドカードの提示をお願いします」


 俺たちは全員分のギルドカードと、依頼のマンティコアの討伐示唆部位を職員に渡した。


「それでは少しお待ちください」


 そう言って、ギルドの奥へ消えていった。


「で、待ってる間はどうすればいいんだ?」


 俺はリリアに尋ねる。


「そうねえ、別の依頼を受けたり、まあ雑談くらいじゃないかしら」


 というわけで、俺たちはカウンターを離れて、椅子に座り雑談をすることにした。


「ねえカイジュ、さっきの剣見せて」


 まあ、減るものではないから、見せることにした。


「凄い。これ、一体何の金属でできてるの?」

「そういえばクエストの途中にそんなこと言ってたな」


 リリアとレントが問う。まあ、これから一緒に活動するパーティーだし、少し位教えてあげようかと思った。


「話をする前に......。無音結界‼」


 俺は、結界魔法の一つである、音の遮断ができる無音結界を発動した。これも不可視の結界だから、遠目で見ても怪しまれない。


「相変わらず凄いわね。これって結界魔法よね」

「ああ。でも今はそれより大事なことがあるだろ」


 そう言って俺は、背中にかけていた鞘から、憤怒の法剣を抜いた。


「で、聞きたいのはこいつが一体何の金属でできてるか、だったな」


 俺がそう言うと、二人は息を揃えて激しく頷き出す。端から見ればこりゃ奇行だな。


「まあまずはこの鞘の紅い装飾何だが、これは伝説の金属『ヒヒイロカネ』だ」

「え⁉ヒヒイロカネってあの⁉」


 まあ、採取が難しいことで有名だが、俺はスキルで創ってる訳だから、そんなことは関係ない。


「い、一体何処で手に入れたの⁉」

「ん、それに答える義理はないかな。まだお前のことを信頼できるとは限らないし、それにまだ本題が残ってるだろ」

「う、そ、そういえば」


 俺は剣を指差しながら言う。


「まずこいつを形成する金属は俺が創ったものだ」


 二人はめっちゃ驚いてる。レントは俺のスキルを知っているからか、さほど驚いているようには見えなかったが。


「まあどうやって創ったとかはおいといて、これは、『アビス』っつう金属だ。魔力伝導率は200%で、硬さはあのミスリルやアダマンタイトを上回る」


 俺はきっぱり断言した。勿論事実だけを。


「な、なにそれ⁉魔金属のミスリルでさえ、魔力伝導率が80%なのよ⁉約二倍じゃない」

「それにその漆黒の剣はカッコいいな。それで鎧とか創ったらどうだ?」

「いや、鎧は創らない」

「何でだよ‼硬いし、魔力伝導率も高いんだろ⁉」

「確かにこの硬さは鎧などの防具にはもってこいだ。だが、魔力伝導率の高い防具は、逆に言うと相手の放った魔法も同じように200%になるんだ」


 つまり、このアビスで造られた鎧を着ている人に、威力50の魔法を撃ったとする。すると、魔力伝導率が200%だから、威力はその二倍の100のダメージを受けてしまう。だから、魔法に極端に弱くなってしまう。


「そういうことか。っと、来たぞ」


 すると、職員が報酬を持ってきた。無音結界を解いた。


「これが報酬となります」


 そう言って、職員が渡してきたのは、金貨十枚。たった三人で分け合うのは、さすがに多すぎる。


「そして、ギルドカードをお返しします。リリアさんはランクA に、カイジュさんとレントさんはランクCになりました。これからも死なない程度に頑張ってください」


 手渡されたギルドカードを見ると、元々薄茶色だったカードが、ほのかに輝き、銅色になっていた。


「じゃあ取り分だけど......」

「俺が三枚、レントが三枚、リリアが四枚だ」

「えっ⁉何言ってるのよ⁉私が一枚、レントが三枚、カイジュが六枚でいいんじゃないの⁉ほとんどカイジュがやったんだし」

「ああ。俺もそっちが妥当だと思うけどな」


 レントとリリアが口をあわせて反論する。


「んー。俺がそう言った理由は二つある。一つ目は、俺は基本レントと行動してるから、レントとあわせて六枚みたいなもんだ。二つ目は......」


 俺は、一呼吸開けて言う。


「これが一番重要なんだが、道案内とか俺たちだけじゃできなかったことをリリアはやってくれただろ。それでリリアが四枚だ」

「だ、だったら私は三枚でいいから、カイジュが四枚貰いなさいよ」


 何故か遠慮するリリア。日本では考えられない。


「リリア。貰えるものは貰っておいた方がいいぞ」

「いや、お前もな」


 正直、このスキルを使えば、金貨でも白金貨でもいくらでも創れるんだよな。まあそんな犯罪紛いなことはしないが。


「とりあえず、これはお前の取り分だ」


 俺は押し付けるように金貨を渡し、自分の分をもってギルドを出た。




「んもう。これどうすればいいのよ」

「まあ貰っとけばいんじゃね。あいつもそう言ってたし」

「で、でも」

「何でそんなに遠慮するんだよ。別に金貰えるんだからいいだろ」

「まあ、そうだけど。じゃあ何でカイジュは受け取らなかったの?」

「あいつは自分だけたくさん利益を得るのが嫌なんだろうな。他のやつらの取り分を取るくらいなら、自分の分を減らそう、ってな」


 そんなことを話している内に、あのパーティーがギルドに到着した。


「ギルドマスターを呼べ‼大変だ‼」




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リリア・ケイン ❮LV. 27❯ ❮職業:守護者プリースト

❮ステータス❯

生命力:1400

体力 :650

筋力 :310

敏捷 :320

知力 :400

魔力 :780

魔放力:510

幸運 :40

❮耐性❯

打撃耐性(熟練度:2),刺突耐性(熟練度:1),斬撃耐性(熟練度:1)

❮スキル❯

治癒魔法(熟練度:3),守護魔法(熟練度:2),雷属性魔法(熟練度:1),乱撃,気配察知(熟練度:4)




焔剣レーヴァテイン ❮武器種:大剣❯

❮材料❯


❮特性❯

変幻へんげん朱雀すざく),纒焔,自動修復,飛斬ひざん


 守護魔法とは、一定の距離内にいる任意の生物の生命力などのステータスを一時的に上昇させたり、その名の通り、味方を守ったり、治癒することに長けた魔法。


 乱撃とは、武器を複数持ち、速く激しく武器を振るうスキル。筋力と敏捷が高い必要がある。


 纒焔とは、焔属性の魔力を肉体または刀身に込めることで、焔属性を纏うスキル。


 飛斬とは、斬撃を飛ばす武器特有の特性である。力を込めると、斬撃の威力も調節できる。




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