第7話イレギュラー

「う、こ、ここは......⁉」


 気が付くと、俺が結界を張っていた場所に寝転がっていた。どうやってここに移動したのかは分からないが、夜明けが近づ

いているあたり、どうやら寝ていたようだ。


「はあ、何であんなことやっちまったんだろ」


 俺は、昨晩の出来事をふりかえった。ちゃんと知天脳を使って調べておけばあんなことにはならなかったのに。だが、このおかげで、新たなスキルを創ることができる。


 二度とあんなことはやりたくない。食えないものは喰えるように。食ったものを俺の力へと変換するような特殊な、異様な力が欲しい。


「想造‼」


 俺は、グラトニーに与えた『暴飲暴食』のようなスキルを創った。その名は『暴食』。何でもかんでも、それはもう土やら岩やら毒だって食うことができるようになり、さらに喰ったものの持つスキルや耐性を奪う効果を持つ。


 これで、喰うことができなかったオーカーや、食うことのできる魔物であっても、様々なスキルや耐性を奪える。


「よし、これで早速狩りに出掛けるか」


 そう言って、亜空間格納庫から憤怒の法剣を取り出すと、横から声がかかった。


「何してるの?カイジュ」

「ッ‼リリア‼」


 リリアが立っていた。しかも武装している。


「どこ行くつもりなの?昨日あんなことがあったっていうのに反省してないの?」

「お前、知ってたのか⁉」


 昨日の出来事を知っているあたり、俺をここまで運んだのはこいつだろう。


「反省も何も、それについてはもう対策もできたし、俺がまだ未熟だったってことだろ。それにお前は何で結界の外に出たんだ?」

「それは、あんたが心配だったからよ。一人で、しかもこの世界に疎い人間が一人で行動するのは危険だと思ったのよ‼」


 どうやら、俺とは違って考えて行動していたようだ。


「ごめんな。次は、次こそは気を付けるよ。それに、お前も結界からは出ないでくれ。お前に何かあっても駆けつけてやれそうにない」

「う、うん。その、気を付けなさいよ」

「おう」


(今さっき俺が言ったことだろうが)


 俺は、心の中でリリアに苦笑した。今度はやらない。同じ過ちを繰り返さないように。


「じゃあ、改めて行ってくる」

「いってらっしゃい」




 俺は走っている。いや、逃げる、おびき寄せると言った方が妥当だろう。何故かって?そりゃ俺が今――


 ――巨大な獲物と闘っているからさ。


 相手は、図体ばかりでのろまな怪物。ドン・オーカーよりも大きくレベルが高い化け物。


「こんなに走ってバテねえなんてな。さすが『イマジン・ボア』だな」


 イマジン・ボアとは、ボアの亜種のような奴で、ボアの半身が機械で出来ているような感じの化け物だ。ボアより大きく、勿論レベルが高く、何より属性持ちの魔物だ。


「さてと、早速殺りますか」


 俺は新たに創った『傲慢の魔斧』を両手でがっしりと持ち、イマジン・ボアに焦点を向ける。


「逝っちまえ‼」


 傲慢の魔斧を大きく派手に振ると、斬撃とともに轟音が鳴り響き、イマジン・ボアの体を横凪ぎに両断した。


「ふう、重いけど強いな、これ」


 そうやって魔斧を見る。この武器は、ただの魔斧ではない。想造によって特殊な特性を持った武器だ。


 刃に触れた物質を吸収し、その質量を使って別の物質を生み出せるのだ。まさに常識や理屈、真理を覆す圧倒的な力だ。これだけだと、武器というより産業に傾いた道具のような気がするが、戦闘に応用することも可能なのだ。


 例えば、牙を持ったモンスターとの戦闘の際は、噛みついてきたその牙を吸収し、鉄の槍として放ったりもできる。


「よし、明らかに喰えそうにないこの機械の部分。これを喰ってみよう」


 俺は早速暴食スキルを試すことにした。傲慢の魔斧で喰いやすいように分け、手にとってみる。


「案外軽いな。これなら腹持ちも良さそうだな」


 そんな下らないことを言い、かぶりついてみた。


「ッ‼意外といけるな‼」


 暴食スキルのおかげか、香ばしい肉のステーキのように味わうことができた。


「ステータスを確認してみるか。これでスキルが奪えていたら成功だ」


 俺は、ドキドキしながら神眼で自分のステータスを見てみる。


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カイジュ・コトブキ ❮LV. 162❯ ❮職業:魔神将❯

❮ステータス❯

生命力:16940

体力 :17080

筋力 :16900

敏捷 :16870

知力 :17100

魔力 :16820

幸運 :1670

❮耐性❯

魔法無効,物理攻撃耐性(熟練度:8),毒無効,酸無効,石化無効

❮スキル❯

悪魔使役(従者数:2),想造,知天脳,地獄耳,神眼,感知妨害,体調把握,結界魔法,火属性魔法,転移,念話,亜空間格納庫,暴食,牙爪(熟練度:5),気配察知(熟練度:2),熱源感知(熟練度:2),魔力感知(熟練度:2)

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 のように、明らかに見慣れないスキルが増えていた。


「よし、奪えてる‼ってか牙爪とかどうやって使えばいんだよ‼」


 一人でつっこむとかアホにしか見えない。でも、うまく使えばこの『牙爪』も、何かに役立つかも知れない。何より、感知系統のスキルや、今まで喉から手が出るほど欲しかった耐性の獲得が何より嬉しい。しかも『魔法無効』があれば、対人戦闘においては最強と言っても過言ではない。


「色々分かったし、そろそろ戻るか」


 俺は、ゆっくり歩いて戻ることにした。


「でも、耐性に魔法無効なんてあったら、見つかった時がヤバイよな。どうしたもんかな」


 俺は腕を組みながら考える。すると、ある考えに辿り着いた。


「そうか‼ばれないように隠せばいいんだ‼」


 そうして思い付いたのが、いろんな異世界転生系のライトノベル主人公が、必ずといってもいいほどの確率で手に入れるスキル。『偽造』スキルだ。


「創るからにはオリジナルじゃないとつまんねえな。いっそのこと他にも創ろう」


 そう言って、戻るとか言いつつ、レントから念話で怒鳴られるまでスキルを創っていたのは言うまでもない。




「はあ、今まで一体何やってたのよ?」

「えっと、森で狩りして、新しいスキルとかを試してました......」


 俺は今、結界を張っていた場所に正座をさせられ、リリアとレントに説教されていた。


「次からは気を付けろよ。それに、俺たちをもっと頼れよ」

「そうよ。今回は特別に許してあげる。ただし次はないからね」

「ありがとな。お前ら」


 どうやら許してくれたようだ。ただ、少し思うのが、


(二人ともチョロすぎだろ。)


 と言った、侮辱のような感想だった。


「で、俺たちこれからどうするよ?行く宛なんてねえぞ」


 レントがいう。




「ふん、そんなもの俺が創ってしまえばいい」


 俺は、『想造』を駆使して家を創り始める。


「「お、おお‼」」


 一分もしないうちに完成した。イメージしたのは、地球にあったような西洋風の館、『洋館』だ。


 緑色の屋根があり、真っ白い壁を持つ俺たちの家(仮)だ。窓には無色透明の純粋なガラスを用いているが、内装は全くない。装飾や家具なども一切合切ない。まあ、家なんだし、俺たちで考えて創ったり、町から購入すればいいだろう。


「じゃ、早速中に入るか」


 そうして二人を連れ込み、洋館を案内することにした。


「うわあ、凄いわね。中に家具とかなんもないけど、結構手の凝った造りになってるのね」

「本当だな。壁によくわからん模様とかあるしな」


 レントが言う『模様』と言うのは、赤い鱗模様の蛇の壁画のことだ。結構自分でも自信がある作品だ。


「でも、これのどこがいいんだ?正直壁画なんてあってもたいして変わらないと思うけどな」

「んなっ⁉あんたバカじゃないの⁉」

「は⁉いや、だってそうだろう?こんなのの何がいいんだよ」


 こいつ、俺の自信作を侮辱しやがった。芸術をわからん奴め。モテねえぞ。


「カイジュ、それ全部聞こえてるぞ?」

「おう、そりゃ悪かったな。すまん、つい本音が漏れちった」

「き、貴様っ‼」


 冗談めかしながら対談する。ノリについていけなくなったリリアが取り残された。


 つーか、何呆けてんだよ。この館を紹介するために呼んだんだろうが。


「ま、取り敢えずそれは置いといて、この館には部屋が幾つもあるんだよ。割り振りとかよくわからんから、リリアに任せてもいいか?」

「えっ⁉いいの⁉」

「だからそう言ってんだろ


 若干呆れ気味に言うと、やったあ‼と言って喜んだ。正直に言うと、面倒臭いことを押し付けられてよかったぜ。




 しばらくして部屋割りが決まり、リリアと協力して家具を創ったり配置したりしている。


 レントは暇なので、自主的に狩りへ行った。





「ふう、ようやく終わったわね」

「ああ、お疲れ。この館は大分広く創ったからな。拘りとかもあるしな」


 拘りと言うのは、さっきの蛇の壁画や暖炉のことである。


 というか、大体の異世界小説では、主人公がチート能力で金を稼ぎまくって、豪華な家を購入する。というのが定番だったが、俺の場合は能力でその豪華な家を自分で創ってしまえるのだ。


「ただいま」

「おう、お帰り」

「それ何?」


 レントは大きな鹿のような獣を担いで持ってきた。神眼によると、魔物ではなく、ただの獣のようだ。


「鹿だよ。かなり強かったから取り敢えず持って帰ってみたんだ」

「はんっ‼そんな雑魚が強いって?つまり自分は弱いと認めるわけだなレント」


 俺が声を高くして馬鹿にするようにして言うと、


「ああん?いくら自分が強いからってそれはないぜカイジュ」


 と、語気を強めながら言ってきた。


「まあまあ二人とも落ち着いて。取り敢えず今日はご飯を食べて寝ましょ」

「ん、そうだな。て言うか誰が飯を作るんだ?」

「しょうがない。俺が創ってやろう」


 俺とレントの言う『つくる』は違うような気がするが、取り敢えず飯ができれば何でもいい気がする。


「んじゃ、今日は事前に買ってあったパンとそいつの肉でいいよな」


 と言って、想造で簡単な料理を創った。想造恐るべし。というか、想造で直に創るよりも、料理がうまくなるようなスキルを創り、そのスキルで作った方が俺も手間ができて楽しめるし、そっちの方がこれから別の奴に料理を振る舞うときに役立ちそうだ。


「宿の料理には劣るな」

「しかもただ加工して焼いただけ。まだまだね」


 と、二人は料理ができない癖に、咀嚼しながら文句を言う。


 ここは少し懲らしめてやろう。


 俺は、想造で新しく『改創かいぞう』というスキルを創り、二人が食べている肉を改造した。


 改創というこの新しいスキルは、もともとあるものや、俺が想造によって創ったものを改造するためのスキルだ。こんな嫌がらせのためだけに創った訳ではなく、これからの戦闘においても活用できると考えたからだ。


「「あーん......⁉」」


 二人は同時に肉を口に入れた。数秒後、二人は悶え始める。


「う、なんだこりゃ⁉カイジュ、一体何したんだ⁉」

「な、何これ⁉すっごい辛い‼舌が焼けちゃう」


 俺が改造したのは二人が食べた肉のだ。レントの肉は苦みと酸味を、リリアの肉にはとてつもない辛味を加えてやった。


 いい気味だ。馬鹿にした罰というわけだ。


「ううー。カイジュのバカ~‼食べられないじゃない」

「ぐっ、やべえ、吐きそう」

「ははは、ざまあみろ」


 二人は涙目になり、二人して大急ぎで家の外へ出た。それぞれ別の方向へ走り出すと、どうやら二人とも嘔吐したようだ。


 しばらくして辺りが静かになった。夜だからか魔物の鳴き声が聞こえてくる。知天脳では調べなかったから分からなかったが、もしかしたら魔物は夜行性なのかもしれない。


「ふう、一息ついたし、風呂にでも入るか」


 そう言って、二人が帰ってくるなんて露知らず自分で創った風呂に向かった。ふと気がついたのだが、俺のスキル『暴食』は、加工されたり料理された『食材』には効果が内容だ。あくまでも『生物』などにしか効かないようだ。


 風呂は日本の銭湯のような大きい風呂ではなく、まさに温泉と言ったようなものにした。一応夜空が見えるように露天風呂も設けてある。


「着替えは創ったし、入りますか」


 自分で創ったので中身は知っていたが、改めて入ってみると日本を思い出させる。


「そう言えば日本にいた頃はよく銭湯に行ってたっけな」


 そう、俺には両親がいなかったので、高校に進学後は毎日近くの銭湯に通っていた。そこの看板娘的な子が後輩で同じ学校に通ってたりもする。


「ふう、極楽極楽」


 ふいに漏れたその声は、日本では爺くさいとかなんとか言われていた。でも何故か言いたくなる癖のようなものだった。


「はあ、二日ぶりなのに風呂に何年も入ってなかったみたいだなぁ」


 異世界に呼び出されて、クラスメイトと別れてレントと二人で町に来てギルドに加入してリリアに出会って、マンティコアを倒してガーゴイルを倒しSランクに昇格してレイブンを倒して戻ってきて、考えればたったの二日間で色んなことがあったなあ。これからはもっと忙しくなるかもしれない。ひとまずはこの束の間の幸福を噛み締めよう。


 風呂に入り浸かった俺は、着替えるために脱衣所に出た。




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傲慢の魔斧 ❮武器種:両手斧❯

❮材料❯

アビス,金

❮特性❯

歪理わいりの法,自動修復



 『歪理の法』とは、世界のことわりを無視して全く異なる法を生み出したり、理にないこと、つまり『反則技イレギュラー』を自由に可能とする特性兼スキルだ。ただし、武器に付与されている特性として扱う場合、手に持たなければ効果は発揮できない。

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