第5話暴食の悪魔と暴食の魔鎌
「ふぃー、疲れたー」
そんなこんなでたどり着いたのは、隣町『エスターゴ』。周辺を森に囲まれ、危険な魔物が多発する場所だ。
俺たちは、『ワイバーン』を討伐するために、はるばる(と言っても、せいぜい一日二日程度だが)やって来た。
「さて、今日も遅いことだし、宿を取りましょ」
「そうだな。討伐は明日にして、今日はもう解散かな」
「オーケー」
そう言って、俺たちはそれぞれの部屋へ入った。外は暗いから、もう寝た方がいいのだが、俺にはまだやることがある。
「さて、今日はもう一体『部下』を創ろうかな」
俺が思い浮かべているのはこうだ。悪魔の中でも、突出するくらい強いやつ。七つの大罪を司る悪魔。その中でも、まずは、憤怒か暴食を創ろうと思っている。理由は、憤怒の方は、武器として『憤怒』があるから。暴食は、これから武器の方も創ろうと思っていたから。
「よし、決めた。暴食を創ろう」
決断したあとははやい。俺の体から血液を抜き、強靭な肉体をもってほしいので肉体の素材として『アビス』を出した。
「あとはスキルと、決め手となる『暴食』だな」
スキルの方は簡単なのだが、暴食の悪魔を名乗らせる何か。それが足りない。
「うーん。取り敢えず、適当に何かやってみよう」
そう言って、思い付きで、世界中から食欲や暴食という概念の1%を奪い去る。
その暴食という概念は、黒く、そして淀みのない色の球体として出てきた。
「これが、暴食、なのか......」
思わず言葉を失った。徐々に、ではあるが、回りの空気を喰らい始めた。このまま放置するわけにもいかないので、さっさと済ませよう。
俺は、暴食の悪魔としてふさわしいスキルと名前を創り、それを材料として、悪魔を生み出した。
「グルアア‼」
そいつは、生まれた瞬時は大声で叫んだが、すぐに理性を取り戻し、俺に向き直った。
「オォイ、あんたがオレヲ創っタノか?」
「ああ、俺はカイジュ、カイジュ・コトブキだ。そしてお前は暴食の悪魔グラトニーだ」
「グラトニーだと?ワラわせルナよ?そノままジャネぇか」
グラトニーは、暴食の悪魔と言うだけあって、少々気が荒い。
「それとも他の名の方がよかったか?」
「いやァ、オレはコッちのほウガいイなぁ」
「そうか、これからよろしくな。それと、早速で悪いが、スキルで魔界に行って来てくれ。詳しいことは、レスレイに聞いてくれ」
グラトニーは黙ってうなずくと、すぐに転移してしまった。
「よし、次は武器だな」
こっちのほうはもう決まっている。まず武器種だが、
「材質はアビス。これは確定で、武器の特性は......」
そうして、『暴食の魔鎌』が完成した。漆黒の刃とミスリルで造った紋章の入った柄は、対照的なカラーでいい味が出ている。
「これで明日の依頼は楽勝だな」
そう言って、新しく創ったスキル、『亜空間格納庫』の中に、憤怒の法剣と暴食の魔鎌を収納して、就寝することにした。
朝起きると、なんだか今日はいつもより体が軽いような気がした。きっと、先日の依頼で、レベルが上昇したのだと思う。
今日はレントたちとワイバーン討伐をするので、部屋を出て、宿の食事を摂ることにした。
「おっす、遅かったな。カイジュ」
行ってみると、もうレントとリリアがいた。朝食は済ませたようなので急ぐ。
「へえ、美味そうだな」
出された食事は、主食となるパンと主菜のタレつき肉だった。日本では考えられない、朝から重量だ。
「ッ‼う、美味い‼」
タレが染み込んだ肉は、外はカリッとジューシー、中は柔らかく口にいれると融けるように消えていく。どうやってこれを作っているのか気になるが、これは店の特製といったところだろう。
「ふぅー、美味かった」
再度感想を述べる姿は、この世界では珍しいらしく、他の客やリリアがこちらを見る。
「よし、カイジュも食い終わったんだし、行こうぜ‼」
「そうね。確か『飛竜渓谷』ってところに大量発生するのよね」
「ああ、でも何で飛竜渓谷って言うんだ?」
その疑問には、リリアのかわりに俺が答えた。
「飛竜、つまりワイバーンの巣がいくつも形成されているからだ。これくらい予習しとけよ」
「お、おお。じゃあ改めて行こうぜ」
飛竜渓谷という場所に着くと、辺りは静かだった。知天脳によると、普段はワイバーンが渓谷のそこに溜まっているそうだが、今回は違った。異様な気配が漂うだけで、ワイバーン事態はどこにもいなかった。
(ちょっと怪しいな。確かめて見るか。)
「神眼‼」
俺は、スキル神眼を発動して、渓谷の中を覗いてみる。すると、
「おい、伏せろ‼」
その声の刹那、渓谷から黒い何かが飛び出して来た。
そいつは、空中を舞った後、上昇して一気に急降下で攻撃してきた。
漆黒の鱗の中に藍色の逆鱗があり、紅の双眼とともに、眼前へ迫る。
「ッチ‼」
俺は憤怒の法剣を鞘から抜き、降りてくるワイバーンを迎え撃つ。だが、やつは俺が剣を握ったのを見ると、ブレスで攻撃してきた。
竜のブレスは魔法に属するから、俺の法剣を通して威力を増して直撃した。
「ぐっ、ああ‼」
「カイジュッ‼」
「レントも集中して‼」
ブレスをまともに食らった俺は、身体中大火傷で、物凄く痛い。これが痛みなのかと初めて知った。
「きゃあああ‼」
「ぐあああ‼」
仲間が倒れていく。俺は突破口はないかと、神眼でワイバーンのステータスを覗く。
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レイブン ❮LV. 207❯ ❮種族:飛竜❯
❮ステータス❯
生命力:157,800
体力 :50,200
筋力 :78,000
敏捷 :23,100
知力 :208,000
魔力 :168,200
魔放力:120,600
幸運 :1,200
❮耐性❯
火属性耐性(熟練度:5),水属性耐性(熟練度:5),風属性耐性(熟練度:5),土属性耐性(熟練度:5),雷属性耐性(熟練度:5),氷属性耐性(熟練度:5),光属性耐性(熟練度:5),闇属性耐性(熟練度:5),物理攻撃耐性(熟練度:5)
❮スキル❯
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
と、絶望的な数値が示されていた。だが、俺は絶望しなかった。否、できなかった。
俺の中で、何かどす黒いものが出てきた。これは、仲間をやられた憤りだろうか。これは、敵を食い殺したいという食欲か。
「ガアアア‼」
いや、その両方だ。俺は声にならない雄叫びをあげながら、レイブンという個体に走り出した。仲間は気絶していた。だから、心置きなく闘える。殲滅できる。
口元を歪ませながら、憤怒の法剣と暴食の魔鎌を片手ずつに装備した。
「ウオオオ‼」
「グラアア‼」
二体の化け物が衝突する。僅かにレイブンが勝り、カイジュの体を空に吹き飛ばした。そして、ありったけの魔力で
「グラアア‼」
空で身動きの取れないカイジュにブレスが直撃した。訳ではなく、カイジュは暴食の魔鎌で受け止めていた。いや、魔鎌がブレスを喰らっていた。
「オラアア‼」
暴食の魔鎌に込められた魔法は、万物を喰らう斬撃を飛ばす、『ディゲッション』。突然のことでかわすことができなかったレイブンは、その首を魔鎌に刈り取られた。
「ハア、ハア」
戦闘終了後も、肩で息をしていた。そして、レイブンの魂を喰った暴食の魔鎌が、刃を光らせ喜んでいるように見えた。
「おい、お前ら起きろ。もう終わったぞ」
「んっ。何?カイジュ?」
「やっと起きたか。もうワイバーンを倒したぞ」
「えっ⁉ええっ⁉」
「いちいち大きな声を出すなよ。こっちは疲れてるんだから」
「う、嘘⁉あれを一人で⁉」
「だからそう言ってるだろ」
「す、凄い......」
暫くしてレントも起きた。二人とも俺がレイブンを殺せたことに驚いていた。そして、暴食の魔鎌についても。
「ね、ねえカイジュ。この真っ黒い鎌何?」
「これは暴食の魔鎌って言って、こいつであのワイバーンをぶっ殺したんだ」
「へえ、面白そうだな。魔鎌っつうことは何かの魔法が込められてるんだろ」
「まあ、そうだが、取り敢えず町へ戻ろう。さすがにつかれた」
「そうね。でも、今日中に戻るのは難しそうね」
「一旦隣町の方に寄ろう。それで明日に行こうぜ」
そうして俺たちは、宿をとっていた隣町で一泊した。
「よし、じゃあ帰ろうぜ‼」
「ええ。一日ぶりでも寂しいものね」
俺たちは隣町の検問を出て、町へ歩き出した。
「ねえ、カイジュ。もう大丈夫なの?」
「ああ。一日で全快だ」
「さすがだな。じゃあ道中で狩りでもやるか」
「狩りって、あなたたち何考えてんの?」
「いや、冒険者になる前は普通にやってたぜ?」
知天脳によると、普通は狩りは狩人がやるものらしい。
「まあそれは置いといて、レント。お前のスキルでなんとかなるんじゃないのか?」
「お前知ってたのか⁉」
「まあな。俺の情報収集能力舐めんな」
「そういえばレントのスキルって?」
「今はいいだろ。取り敢えず
レントは適当にはぐらかすと、固有スキルであいつを喚び出した。
「来い‼朱雀‼」
出てきたのは、赤系統の色の鮮やかなグラデーションで彩られた綺麗な羽毛をもつ鳥だった。勿論ただの鳥ではない。神眼でみていたから知っていたが、こいつが朱雀だ。
「き、綺麗ね」
「クオオオ‼」
朱雀が鳴いた。さっき赤系統の色といったが、金色の羽も混じっている。確か朱雀の別名は鳳凰だったはずだ。なかなかカッコいいじゃないか。
「二日ぶりだな。よし、みんな乗れよ」
ポンポン、と朱雀の背を叩き朱雀にまたがった。
「二日ぶり?ってどういうこと?」
「こいつは特殊なスキルを持ってるんだ。それでこの前は焔剣レーヴァテインとしていたはずだけどな」
「えっ⁉あの剣が⁉凄い‼」
「おいリリア。おしゃべりはいいから早く乗れ」
俺はリリアを抱き上げ、レントの方へ投げる。
「えっ⁉ちょ、待って~‼」
「おい⁉カイジュの馬鹿⁉」
朱雀の上で丁度抱き合う形となったレントとリリア。滑稽だな。
「おい、声に出てるぞ」
リリアを離したレントが、殺気を放ちながら言う。
「すまんすまん、つい本音が」
「んもう‼早く行きましょ‼」
リリアがそっぽを向く。それはほっといて、俺も朱雀の上に乗る。
「じゃあ、テンペートの町へ出発‼」
「クオオオ‼」
朱雀の威勢のいい返事が返ってくると、すぐに飛び立った。森の遥か上空に昇ると、高さを維持して前進した。
俺たちは町の光景を見て絶句した。
「な、何があったっていうのよ?!」
「んだこりゃ⁉」
目の前に広がっていたのは、ただの焼け野原だった。
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グラトニー ❮LV. 1❯ ❮職業:
❮ステータス❯
生命力:860
体力 :620
筋力 :700
敏捷 :160
知力 :200
魔力 :800
魔放力:0
幸運 :0
❮耐性❯
魔法無効
❮スキル❯
暴飲暴食,胃酸強化
暴食の魔鎌 ❮武器種:魔鎌❯
❮材料❯
アビス
❮魔法❯
ディゲッション
❮特性❯
魔力伝導率200%,暴飲暴食
朱雀 ❮LV. 100❯ ❮職業:南方の守護獣❯ ❮種族:朱雀(固有)❯
❮ステータス❯
生命力:183,200
体力 :126,000
筋力 :42,000
敏捷 :22,000
知力 :213,800
魔力 :189,100
魔放力:103,500
幸運 :10,000
❮耐性❯
火属性吸収,光属性無効,聖属性無効,物理攻撃耐性(熟練度:MAX ),呪い無効,毒属性無効,毒無効,石化無効
❮スキル❯
超再生,守護魔法(火属性,聖属性,熟練度:MAX ),不死鳥再生,変幻(焔剣レーヴァテイン),ブレス(火属性)
暴飲暴食とは、死んだ生物を喰うことで、その生物のステータスを奪うスキル。暴食の魔鎌の方は、武器の性能が上がるのではなく、所持者のステータスを上昇させる。
超再生とは、傷ついた肉体を通常の二倍の速度で回復させるスキル。ただ、再生速度を上昇させるのはあくまでも『傷』なので、生命力の再生速度は上昇しない。
不死鳥再生とは、一度生命力をゼロにして、レベルをリセットすることで、数秒後に肉体や生命力を全快にして復活する、というスキル。ただし、復活直後はレベルが1なので、敵があまりにも強すぎると、瞬殺されてしまう。
変幻とは、武器や生物などに姿を変えるスキル。変幻後が複数あるものもあれば、一つしかないものもある。変幻前と変幻後の二つを使い分けることが重要。
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