最終話 ミルク、改札にて

 車内のアナウンスが、アタシの降車駅を知らせる。

 ようやく暖房で体が温まったと思ったのに。あと一駅で降りなきゃいけないなんて、そりゃあないぜ。

 シートヒーターにピタッとお尻をつけて、熱を蓄える。そんなことしても意味ないって解っている。

 車両は減速を極めて、アタシの体は大きな力によって進行方向に押し付けられる。

 やがてドアが開いて、冷気がアタシを急かす。しぶしぶ腰を上げてホームに降り立った。

 ふんわりとした外灯がホームを照らしているのに、そこは全然ふんわりしてなくて、靴越しにも硬さと冷たさが伝わってきた。

 なあ、ハル。

 アタシはやるべき事をやったはずなんだけれどな。

 アンタはアタシにとめて欲しかったんじゃあねえのか。だと思ったから、今更口にするのも恥ずかしい告白をして、精一杯引き留めたのに。

 いや、告白はアタシがしたかっただけなのかもな。

 アンタはそれが解っていたのかもしれないな。

 何もかも憶測で、全部が的外れかもしれないけれど。

 電車は変拍子を刻んで、遠く闇の向こうへ消えて行った。

 それに追いすがるように風が駆け抜けて行って、アタシはダサいなって思いながらライダースジャケットのえりを立てて歩き出した。

 帰ったら彼氏に温めて貰おう。

 いや、その前に凍死するかも。

 精算のためにポケットからスマフォを取り出す。

 改札の手前、一体の自販機に出合う。

 ぼぉぉぅうん。

 そいつはアタシを見るなり、重い重い溜め息を吐き出した。

 そりゃそうだよな。

 誰かを温める為に、こんな寒い所で、一人たたずんで、大変だよな。

 自販機の前に立つ。

 アタシはねぎらいの言葉を掛ける代わりに、何か買ってやることにした。

 っつーか、寒いのからなんか温かいものが欲しかった。

 そうだな。出来ればコーヒー以外で。

 ああ、これがいい。

 アタシは甘い甘いミルクセーキのボタンを押した。

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ロゼット 詩一 @serch

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