第9話 鶴女房の嘘

「巳之吉さん。わたしも実は隠していたことがあるの」


 お雪は静かに顔を上げた。


「待て! いやだ! 聞きたくない!」


 巳之吉は顔色を変えた。


「巳之吉さん! あのときは確かに『人に言うな』と言ったけど、命よりも大切なあなたに、わたしが何かすると思うの?」


 お雪と己之吉は見つめあった。


「そんなこと、考えてもみなかったよ」


 巳之吉が、悲しげに笑った。


「人間ではない者は正体が露見すれば向こうの世界に帰るんだろう?

俺は、お雪といつまでも一緒に居たいんだ!」


 すると突然に取調室のドアが大きく開いた。


「与平を殺したのは、うちです!」


 おつうだった。


「うちが殺しました!」


「まさか?」 「どうやって?」


 お雪と巳之吉が同時に疑問を口にした。


「えっと……。杣人峠で呼び出して、クチバシでつついて、じゃなくて殴って!」


「鶴が人を?」


 中村刑事が首を傾げた。


「鶴には無理じゃないスか?」


 苦笑いをしながら大柄な熊の刑事も入ってきた。


「信じて! うち、頑張ったんです!」


 おつうは泣き出した。今になってやっとわかった。お雪がうちの為に与平を殺してくれたんだ。そして巳之吉さんはそれを知って、お雪を守ろうと嘘をついてるんだ。

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