第9話 鶴女房の嘘
「巳之吉さん。わたしも実は隠していたことがあるの」
お雪は静かに顔を上げた。
「待て! いやだ! 聞きたくない!」
巳之吉は顔色を変えた。
「巳之吉さん! あのときは確かに『人に言うな』と言ったけど、命よりも大切なあなたに、わたしが何かすると思うの?」
お雪と己之吉は見つめあった。
「そんなこと、考えてもみなかったよ」
巳之吉が、悲しげに笑った。
「人間ではない者は正体が露見すれば向こうの世界に帰るんだろう?
俺は、お雪といつまでも一緒に居たいんだ!」
すると突然に取調室のドアが大きく開いた。
「与平を殺したのは、うちです!」
おつうだった。
「うちが殺しました!」
「まさか?」 「どうやって?」
お雪と巳之吉が同時に疑問を口にした。
「えっと……。杣人峠で呼び出して、クチバシでつついて、じゃなくて殴って!」
「鶴が人を?」
中村刑事が首を傾げた。
「鶴には無理じゃないスか?」
苦笑いをしながら大柄な熊の刑事も入ってきた。
「信じて! うち、頑張ったんです!」
おつうは泣き出した。今になってやっとわかった。お雪がうちの為に与平を殺してくれたんだ。そして巳之吉さんはそれを知って、お雪を守ろうと嘘をついてるんだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます