雪女の嘘

来冬 邦子

序章 第一発見者

 残雪の彩る黒い尾根を、柴を積み上げた背負子を担いで若者が降りてきた。

 振り仰げば冬麗の空は突き抜けるように青い。凍りついた沢を慎重に越すと、乾いた岩場から辺りを見渡した。いま越えてきた沢は夏場は舟が無いと渡れない。


「昔はここに渡し場があったんだよな」


 七年前の秋、季節外れの猛吹雪が吹き荒れて、船頭の番屋も雪で潰れてしまった。確か木樵きこりが一人行方知れずになったのだ。これは潰れた番屋の跡だろうか、若者の膝の高さほどの小山が枯れ蔦に埋もれている。何気なしに蔦をかき分けると、苔生こけむして黒くなった板が顔を出した。ノミの細工の跡が見てとれる。古い小舟のようだ。


「これが渡し舟かな」


 好奇心が手伝って、若者はその泥まみれの舟を力任せに裏返した。


「う、う、うわあああああああ!!!」

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