第6話 鶴が捨てた男

 だが夫婦になってみると、この与平、天真爛漫ではなくただの莫迦、大胆ではなく無謀な男だった。おつうが我が身の羽を抜いて織りこむ反物が法外な高値で売れると分かったとたん、仕事もせずに酒や博奕ばくちに明け暮れるようになったのだ。


 おつうは与平を捨てた。そのいきさつが民話として残っている。


 「決して見ないで下さいね」というお約束の決め台詞でくだんの機織り部屋に与平を誘導し、障子の穴から鶴の正体をさらけ出すと、腰を抜かした与平を残して円満離縁の空に旅立ったのであった。


「あの時のおつうって、超カッコ良かったよ!」


 お雪は大切な幼馴染みの瞳を見つめた。


「そうかな?」


 おつうの頬にかすかに赤味が戻る。


「でもどうして、あいつ、杣人峠そまびととうげなんかで死んだんだろう?」


「自殺よ。おつうの思い出と心中したのよ!」


 首を傾げるおつうに、お雪は断言する。

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