第5話 鶴女房

「そんなはず、ありません!」「うちの人は人殺しなんてしません!」


 おつうとお雪は同時に叫んだ。


「はあ。ちょいと失礼して、詳しくお話をうかがってきますよ」


 中村刑事がシッポを揺らして出て行くと、おつうが両手に顔を埋めた。


「まさか与平が死んでたなんて……」


「おつう。信じて。お願い。うちの人はそんなこと……」


 瞳を潤ませたお雪がその肩を抱いた。


「わかってる。巳之吉さんは人殺しなんかできる人じゃない」


 顔を上げた、おつうは無理にも口角を上げようとした。

 そんな幼馴染みをお雪は抱きしめる。


「ありがとう。おつう」


 おつうの正体は、言うまでもなく鶴である。

 杣人峠そまびととうげで、猟師の罠にかかった鶴を救ったのが百姓の与平だった。猟師にしてみれば大事な得物を逃がした盗人同然の仕業しわざである。与平は猟師とその仲間から散々な目にあわされるはめになるのだが、この男は後先を考えるたちではなかった。そんな与平に一目惚れしたおつうは、正体を隠して押しかけ女房になったのだった。

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