第4話 失踪した男


「いいえ」


 おつうはつんと顔を背けた。思い出すだけで胸が悪くなる。


「別れましたから、赤の他人です」


「これは失礼。そうでしたね」


 狸が恐縮して肩をすくめると、お雪がおつうの肩をそっと抱きながら訊いた。


「刑事さん。与平さんは、どこで見つかったんですか?」


 おつうは顔をきつくこわばらせたまま俯いている。


杣人峠そまびととうげの番小屋で使っていた舟の下です。あの番小屋は七年前の雪崩で潰れて以来、誰も近づけなかったんですが、今年の暖冬で残骸を覆っていた雪が溶けて、たまたま通りかかった村人に発見されました」


「舟の下?」


「白骨化しておりまして」


「ひっ!」


「時間が経ちすぎて死因が分からんのですよ。それで当時、仕事仲間だったという巳之吉さんに詳しい事情をお聞かせ願えればとお呼びした次第でして」


 そこへ大柄なツキノワグマの刑事が、ノックもせずに入ってきた。


 熊は狸に何事か耳打ちすると、すぐにまた出て行った。


 ドアが閉まると、狸が沈痛な面持ちで顔をあげる。


「巳之吉さんは、与平さん殺しを自白されたようですな」

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