第3話 御伽警察

「うちの人が何をしたんですか!」


 御伽警察おとぎけいさつの受付でお雪は身を震わせた。

 すると、くたびれた背広に身を包んだ中年の狸が奥から出てきた。


「いや、まだ事情をうかがっているだけですから。ええと、巳之吉みのきちさんの奥さま、ですね?」


「はい。巳之吉の妻のお雪です」


「雪女のお雪さんですな」


「大きな声で言わないでくれませんか。夫や家族には秘密なんですから」


 お雪の一重の目尻がきりきりと上がる。


「おっと。そうでしたな。申しわけありません」


 中年の狸が亀のように首を縮める。

 初めて見る幼馴染みの本気のキレっ振りに、おつうは凍りついた。


「ええと、わたくし日本御伽話にっぽんおとぎばなし警察・怪談一係かいだんいちがかりの中村巡査部長です。怪談・化け物系のトラブルを担当しております。よろしく願います」


 狸が名刺を二枚出して、ぺこりと頭を下げる。

 御伽警察は人間の厄介ごとに巻き込まれた妖怪を保護するのが仕事である。妖怪を怒らせて酷い目にあった人間は自業自得なので介入しない。


「うちはお雪の友達でおつうといいます。付き添っていいですよね」


 お雪の陰から顔を覗かせて、おつうが言った。


「おつうさんですと? 鶴女房のおつうさんですか?」


「はい。そうですけど?」


「いや、よかった。実は。おつうさんにもお話を伺いたかったんですよ」


「どういうことでしょう?」


「立ち話もなんですから。こちらへどうぞ」


 狸の中村刑事はテーブルとソファーのある応接室に二人を招きいれた。


「実は七年前から行方不明だった与平よへい氏が、見つかりましてね」


 狸の三白眼がジロリとおつうを見た。


「与平氏はあなたの御主人ですよね、おつうさん?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る