終章 事件の真相

「なるほど。分かりました」


 おもむろに狸の刑事が口を開いた。


「鶴女房のおつうさんが、与平氏に積年の恨みを晴らした、ということですな」


「そうです」


 おつうは神妙にうなずいた。


「動機は十分ですが、しかし手口がなあ」


 若いツキノワグマの刑事が首を傾げると、おつうは頬を染めた。


「バカ者」と狸刑事が唸った。


「あの日は吹雪じゃないか。杣人峠にやって来た与平氏は、雪の中でおつうさんの姿を見かけ、連れ戻そうと悪天候の中に出て行ってそのまま凍死したんだ。そうに違いない。すべて辻褄があうじゃないか」


「ああ、そう言われたら、そうだった気がします」


 巳之吉も頷いた。


「よしよし。事件は解決だ」


 狸刑事は滑らかにタイピングした。


「御伽警察では正当な理由がある限り、妖怪の祟りは不問とされます。この事件は鶴女房の祟りと言うことで問題ありません。こちらにサインして頂いたらお帰り頂いて結構です。めでたし、めでたし。みなさん、お疲れさまでした!」



 * * *



 御伽警察からの帰り道、肩を並べて歩きながら、お雪はおつうの顔をそっと伺う。巳之吉は気を利かして、子どもたちが心配だという口実で一足先に帰ってしまった。


「おつう、うそついてて、ごめんね」


 おつうは自分の代わりに涙する親友の肩を抱いた。


「うちは大丈夫。嬉しかった」


 おつうは子どものように笑った。


「うちは幸せだよ。お雪」



 * * *



「早かったじゃないか。夕飯は食べてきたのか?」


 薪割りをしていた巳之吉が優しい眼差しでお雪を迎えた。

 子どもたちがわらわらと駆けよってくる。六歳になる三つ子が初音はつね双葉ふたば弥生やよい、四歳の双子が四方しま五德ごとく、年子の二歳が六花ゆき七重ななえ、一歳が八幡はちまん九夏きゅうか、最後に赤ん坊の十福とふくを抱いた姑も出てきた。


「家でみんなで食べたくて。おかげさまで外出、楽しかったです」


 お雪が母親の顔で頬笑んだ。

 わたしはこれ以上何も要らない。

 お雪は幸せだった。

                                 <了>

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雪女の嘘 来冬 邦子 @pippiteepa

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