第7話 キャバクラ

7.キャバクラ


寮の中は、冷蔵庫とテレビがあるだけで、他に何もなかったが、屋根があるだけマシだとそう思っていた。


仕事する店はそこからすぐの5階建ての駅から近いビルにあった。



夕方から店舗に行って、掃除から始まり、おしぼり、テーブルのセットなど、お店がいつでも開けられる状態にするのが最初の仕事だった。


これを一人で全てやるので、2時間はかかる。



同じ系列の三軒のキャバクラあり、キャスト(女の子)の数を出来るだけ削減しているらしく、三軒の店でキャストを回しながら経営していた。


そんな弱小な店舗なので、オープンしてすぐはとにかくキャッチをひたすらやらされた。


最初は男の人に声をかけて捕まえるコツがいまいちわからなかった。


そこで、キャッチの数がトップの人に色々聞いてみることにした。


その人が言うコツとは、普通に声をかけるなら誰でもできるが、普通じゃない声かけをすると、男は面白がって話を聞いてくれるという。


だから、普通じゃない声かけを始めた。


普通なら、キャバクラどうですかー?というのが普通。


「お父さんお疲れ様です。今日はお時間ありませんか?」


「そこのイケメンのお兄さん!うちの女の子のタイプです!」


など、初っ端から声をかける一言目をその客、個人に向けた一言にかえた。


すると、キャッチ数はみるみる増えて、面白いように取れるようになった。


キャッチを取ると店内に誘導して、後はまた外に出るのだが、外ばっかりいてもつまらなくなる。


そこで、お店をある程度、満席にすれば、店内の仕事もできるだろうと考えて、キャッチをとにかく必死にやることにした。


ある程度、店内に客が増えると回らなくなるので、店舗内に入り、テーブルの片付けやドリンクを作ったり、セットの時間を把握したりと仕事も増えるがそれも中々面白かった。


特に、キャッチで捕まえたお客さんがいい顔で飲んでるのを見ると嬉しい気持ちになった。


それから店長から自分のやる気を見て女の子の付け回しの仕方やキャバクラの基本的な仕事をある程度教えてもらった。


それから3ヶ月ほどして、社長からかなり仕事のできる店長がいて、君を育てて欲しいからそこの店舗に移動してみないか?と言われたので、移動することになった。



どれだけ仕事ができる店長なんだろうとワクワクしながら期待した。


異動先の店舗についたら店長がいたが、見た目はまんまんヤクザで、頭はパンチパーマで、イカツイ目つきの人だった。


こんな見た目だがらキャッチは全然ダメなんだよな!と笑っていたが、見た目より怖そうな人ではなくて安心した。


それからその店長と仕事をすることになった。


その店長はかなり変わったお店の回し方をしていた。


普通、お店のキャストとは、そこまで深く話をするものではないとその当時は思っていた。


パンチパーマの店長のやり方は、キャストと深く話をしながら常にキャストを一番に考えるというやり方。


だから、店舗でお客さんを待っているキャストが6人ぐらい座っている所に座ってみんなでワイワイずっと話をしている。


自分はそれがとても不思議な光景に見えたので、お店が終わった後に何となく聞いてみた。


「どうしてあそこまでキャストと深く話をされるんですか?」


すると店長はこういった。


キャバクラは、キャストがメインであり、キャストが指名を呼べないとお店の利益が上がらない。



だから、まずはキャストのモチベーションを上げるために話をしたり、客状況の把握やプライベートのことなども話して、情報を交換とキャストとお店との深いつながりを持たせるためにやっていると説明してくれた。


自分は店舗やキャストのことをそこまで深く考えていなかったので、この店長はほかの店長とは見てる目線が違うなと悟った。


それから店長のやり方を真似るようにして色んなキャストと話をしながら仕事をしていたが、ある時、やらかしてしまう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る