生きたい。ただそれだけが難しい。全力で終末を駆けるボーイミーツガール!

未来のない終末の福岡を、一匹狼の主人公はるまが自転車で駆け抜けます。というと、さわやかで切ないアンニュイ終末っぽいですが、めっちゃくっちゃ血なまぐさくて地面に這いつくばって闇を駆ける終末です。

闇といっても夜じゃないのがポイントで、満月とか流星とか、北極星を見あげて「変わらないもなんてひとつもないんだ」とか、そういうビッグなものに思いを馳せる系ではありません。この作品の闇とは、すなわち、太陽がないということなのです。建物の中、日陰、帽子そしてサングラスなどなど……太陽を避けて生きているのですよ。終末のボーイミーツガールだけど、キラキラロマティック~とかもないです。はるまとさなちゃんは、そういうんじゃないんです。ニワトリ一羽で押し問答するくらい力を振り絞って全力で生きていて、彼らが見ているのは遥か遠い彼方ではなく、目のまえに迫り来る恐怖なのです。

考えてみれば終末ってきれいなわけないですよね(わたしは大好きですが……)。本当の終末を経験したことがないので想像ですけど、最近、美しくてきれいな終末をアニメなどで摂取しすぎたなと思って……(大好きなので……)目が覚めました……もとい、ヒロインさなちゃんの必殺パドルで頭をかち割られました。


吸血鬼VS人間なのかなと思いきや、吸血鬼にもまともな吸血鬼とまともじゃない吸血鬼がいて、なんと人間にも、まともな人間とまともじゃない人間が出てくるんですね。どの勢力が完全悪とかではなく、本当に、どの勢力も、ただただ自分たちの「生きていたい」を体現してぶつかり合っていて、読み応えがありました。


なんでこんなに生きにくい世の中にしちまったんだよーーー!!!
って地団駄を踏みたいんですが、それは作中で主人公はるまも絶望しくさっていることで、わたしも何度でも絶望したい。なんでこんな生きにくい世の中にしちまったんだよ……。生きていたいっていう人間本来の欲求を叶えるのがこんなにも困難な世の中を、どうして作っちまったんだよ、崩壊前の人間たちよ。そしてその欲求を一つでも多く当たり前に叶えられるというのが豊さなのだなあとふと2019年NIPPONを振り返って思いふけったりするのです。

でも過去を悔やんでもしかたないということを、はるまは教えてくれます。そういう世界でもなんとか生きていかなきゃならない。生きて、生きて、生き抜いたエンディングが美しい。あたらしい尺度を手に入れたはるまの新たなる一歩が、希望を生むといいなあ。



(レビューとかtwitterで、みんながヒャッハーって言ってるのに、作中ではだれもヒャッハーって言ってなかったのがじわじわ衝撃でした……)

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