生きるべき者が生き延びる、とは

福岡には、行ったことがない。
しかし、この物語を読みはじめてすぐに、わたしは荒廃した「天神」なる通りに"居た"。

なるほど、著者は福岡に住んでいるらしい。それなら、と、容易に納得できるようなレベルでは無い。圧倒的な色彩や空気感をもって町は描き出され、容赦なく読み手を引きずりこむ。

ある吸血鬼への復讐心を胸に戦う主人公・榛真、彼の前に現れた紗奈の葛藤、敵対する組織、組織と相容れずもがく者、自分の存在すら憎む吸血鬼。
だれを信じ、どう行動すべきか。どのように己が命や大切なものを守り抜くか。物語は常に登場人物たちに、そして、読み手であるわたしたちに問いかけ続ける。
目の前にいるのは、ほんとうに敵か?

最終話、新たな決意をした榛真の心中は穏やかに、静かに描かれている。その瞳が映す未来を、思わざるにはいられない。

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