居心地悪い生を引きずったままで、きっと誰一人真っ当な死者になれやしない

兎にも角にも居心地が悪い。
本作を拝読している間、ずっと肌にまとわり付いてくるのが、そんな感覚です。

閉鎖的な山奥の村の空気、一触即発の人間関係、何よりも今の現実にそぐわない自分自身。
登場人物一人ひとりが抱える鬱屈や妄執が、混じり合い渦となって底なし沼へと引きずり込んでくる。
知らぬ間に、この怪作の虜になっていました。

村に君臨していた権力者を喪ったことで表面化する、血と家と金の泥沼劇。
元自殺志願者ばかりが住まわされるシェアハウスの、表の目的と裏の目的。
この二つの筋がどのように絡んでくるのか、あれこれ想像を働かせるのもまた一興。

現実離れした設定の、ともすればどこまでも重くも暗くもなる題材。
ですが、軽妙でリアリティ溢れる会話の応酬が、「自分のすぐ側にあるかもしれない、生々しい人間の物語」だと感じさせるのです。

自分の中身は未だオザケンが『今夜はブギー・バック』を歌っていた頃のままなのに、外側の殻は平成最後の空気を吸っているだなんて。
そういう類の、居心地の悪さ。
30〜40代ぐらいの人は特に、何かしら共鳴するものがあるはず。

物語はまだ途中。ここからどこへ向かっていくのか、非常に楽しみです。

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