最終話:予想通りの結末?
*
「まだ、気付かないかい、ホウカン君? 彼の名前だよ、名前!」
そう言って波謎野警部が、犯人だと名指した人物を指差す。
「えっ、彼の名前ですか? 彼の名前は、三男の……」
「そうだ。あのような場所から、そのようなややこしい煙突に――このような密室状態の部屋にすんなりと侵入できる人物といえば……、彼以外にはいない! しかし――やはり、彼とて侵入するのに少し手間取ったようだがね」
「――なるほどぉ! 三太だけに、サンタ苦労す――ってことっすか!?」
ホウカン刑事は、波謎野警部の見事な推理に感服し拍手喝采を送る。
「えっ? まさか、それが――犯人を特定した理由……!?」
誰にでも考えつくような予想通りの
「そんな馬鹿なぁ!」と、一同は一瞬耳を疑ったが、呆れ顔でその言葉を押し殺す。
そんなことは何処吹く風――
「まあ、すべては鑑識結果が出れば明白になるであろう!」
そう言って、波謎野警部は自分の推理にご満悦。
この時、波謎野警部は知らなかった――
あの部屋は密室でもなんでもなかったことを――。
翌朝早く、三太は父親の部屋を訪ねた。
今日こそ話し合おうという気構えで。
しかし、ドアを開けようとドアノブを握り、押そうが引こうがビクとも動かない。
昨夜、彼がこの部屋をあとにする時にはカギは掛けていない。
あのあと、目覚めた父親が自らカギを掛けたのだろうと彼は、そう推測し納得した。
そうであるならば、父親は起きているに違いないと、ドアを軽くノックした。
部屋の中からの反応が得られず、少し強めにノックを繰り返した。
カギが掛かっているのだから居ないわけが無い。だが、何の返事も無い。
彼は訝しんでドアノブに手をかけた。
そして――
三太は知らなかった――
開かないドアを無理矢理に開けようとして必死になって何度も押したり引いたりしていた事実を……。
そして、凭れかかるようにして座らせていたために、何かの拍子にその姿勢がくずれ、ドアを開けるのを邪魔をしていたことを……。
況してや、被害者の首に巻かれていたストッキングがドアノブに引っ掛かっていて、首つりのような状態になっていたことを……。
それなのに、ドアを開くために押したり引いたりしたことで、首に巻かれたストッキングに大きな力が加わり、結果的にそれが――被害者を死に至らしめていたという事実を……。
三太が二度目にその部屋を訪れた時――その部屋は密室状態であった。
昨夜、彼が良かれと思ってした行為によって、奇しくもドアにカギが掛かったような状況が出来上がってしまい、その上、彼が第一発見時に行った手段によりこの密室殺人が完成されたというのがこの事件の真相であった。
そしてのちに関係者一同は、事件の引き金となった問題の遺書は、事件が起こる数日前には既に顧問弁護士の手に渡っていたことを知った。
図らずも波謎野警部のいい加減な推理は、当たらずと
<了>
クリスマス・イヴの密室/Locked room of Christmas Eve 長束直弥 @nagatsuka708
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