一歩ずつ少しずつ。傘の下から顔出して、陽だまりみたいなあの場所へ行こう

「学校」の外にも世界があるということに、気付いていない少年少女は案外多い。
教室の中に居場所がないのなら、他のところでそれを見つけられたらいい。
この物語を拝読して、沁み入るようにそう感じました。

不登校の主人公・芽衣が見つけたのは、水曜日だけ営業しているパン屋さん。
その小さなお店で出会った人々との穏やかな時間が、傷を負った芽衣の心を少しずつ解していきます。

優しい語り口の文章によって丁寧に紡がれる、芽衣の微かな心情の機微。
甘いパンの匂いや繋いだ手の温もりまで伝わってくるようで、胸の奥がきゅっとして何故だか涙が出そうになります。

全体を通して、雨の描写が印象的です。傘で身を隠す冷たい雨だったり、素直に流せない涙の代わりの雨だったり。
でも、決して消えない傷痕を癒すための雨もあるように感じました。

同じような傷を負った音羽くんが芽衣にしてくれたように、芽衣もまた他の誰かに温かな時間をあげられるようになったらいい。
自然に優しい気持ちが溢れてくるような物語。この先も楽しみです。

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