留まれば親不孝、負ければ死、落ちれば虚無

死者をあの世に運ぶ、灯籠廻船。
生者がその船に乗ってしまった場合は、「七晩」に「二人一組」で現れる「八人」のヤツマタ様なる異形を退け、最後の夜に主の名を呼ばねば戻ることができません。

主人公・イタチは生きたまま、灯籠廻船に乗り込んでしまいます。彼は至って普通の三十代男性、武術の心得もなければもちろんチート能力も持っていません。おまけに、共に迷い込んだユメミ、ロッコ、シュウという三人の子ども達もいます。
「大人」として彼らを守らねばと思うのだけれど、襲い来るヤツマタ様達はとんでもない異能を持っている上、イタチは年齢こそ重ねていてもでも己で自覚しているほど精神は未熟。

しかし生き残るためには、戦わねばならない。
虚ろに生きてきたイタチが何故、生にしがみつくのか。彼には、大きな心残りがあるからです。

異形達との戦いは、知力、体力、胆力、使えるもの全てを毎度出し切っても尚追い詰められる緊張感に満ち、息をもつかせぬ展開に文字を追う目が、ページを繰る手が止まりませんでした。

そして全ての戦いの後に待つのは、衝撃の事実。
交差しつつ掠め合いはしていたのに、しかし届かなかったすれ違いの思いに声を上げて叫びたくなりました。

イタチのように、年齢に心がついていかない大人はたくさんいると思います。生きているだけで勝手に時は過ぎ、成長しようがしまいが勝手に年を取っていく。どうにもできないもどかしさを噛み締めるしかない現実に、虚ろを覚えることもあるでしょう。

だけど歯がゆさを感じ、悔しさを飲み、痛みと苦しみを感じられるのは生きているからこそ。

嵐のような命の攻防を経て迎えたラスト、胸を締め付けられる切ない読後感に、ぶつかることを恐れず立ち向かおう、その時は今しかないかもしれないのだから、と私も生きる力を分けていただいた心地がしました。



ヤツマタ様の個人的な推しはヒバカリ様です♡
能力はとんでもなく恐ろしいけれど、ちょいちょい可愛い仕草を見せてくれるところにほっこりしました。初登場からあんな陽気な謎行動で惑わせてくるなんて、ズルいです(笑)

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