視点を変えることの功罪について

全くもって個人的な見解からレビューを始めることに違和感を抱かれるかもしれませんが、それでも筆が止まらない心境をご理解願います。

群像劇のようにころころと視点を変える作品は好きではないというのが私の立ち位置です。

読者としては、物語の深みにつま先、膝、腰と順に浸かっていく過程を章ごとにリセットされるのは小説の醍醐味である感情移入を阻害する要素以外の何物でないと認識しています。
また作者としては、主人公をとりまく魅力的な登場人物たちの描かない言動・想いにこそ、他作品との腕の違いを見せる余地があるというのが信念です。

本作は自主企画ということで題材があらかじめ決められた中で物語が組み立てられていますが、四人の高校生の視点を順に描くことは作者様が決断されています。

巧みな表現の数々は心情を表すには申し分なく、高校生らしく背伸びしない印象がなにより心地よいです。
そして、四人それぞれの想いは短い文章の中で、まるで他者の瞳に映る自分自身を見つめるように作品へと落とし込まれていきます。

>>四人お揃いで決めた、何度となく聞いた着信音
四人の視点を順に描くと決めた決意が結実する瞬間です。
かけがえのない時間を共に過ごした四人だからこそ、誰かの視点だけでこの物語を描いてはならないのだと言いたげに。

この作品で「視点を変えることで腕の違いを見せるのだ」と教えられた気がします。
ぜひご一読ください。