ありふれた恋。よく見た恋。語り尽くされた青春物語。だから……凄い。

この話を最初読み出した時、まずひとつのこと、一つの単語を思いました。
「テンプレ」
そんな言葉が思い浮かびました。
ありふれた話。
王道であり、先人の物を踏襲したパロディに近い小説。テンプレーション。よく見るお話で、よくある話、だと。
そんな風に私は思いました。感じました。
異世界ものや魔王勇者、悪役令嬢などなど。
それらに連なる青春恋愛小説。
よくある、よく見る。
代わり映えしない日常小説。
だからこそ、そう思った時から、私はこの小説の続きを読みませんでした。
もし最後まで読んで仕舞えば、もっと厳しい言葉が出ると思ったからです。
作者にとって、自分の作品が、周りと遜色ない「ありふれた作品」と評価されることがどれほどに傷つける言葉なのか、私は、一物書きとしてよく知っているからです。
それから、しばらく。
私はこの小説を読むのをやめました。
開くのをやめました。

しかし、実際蓋を開ければ、その評価は一転しました。
いえ、一転という言い方は違いますか。
正確には「上書き」とするべきでしょう。
だって、別に、この小説は変わっていませんでした。変えられていませんでした。
何も変化はなく、今まで通り、よくある、どこかで見たことのある展開。
この小説は、最後まで変わらないまま、変わらずありふれた題材のまま、描かれ、紡がれ。
そして——終わりを迎えたのです。

それでも。
私が読み終えた後の感想は、前とは一転したものでした。
一転して変わっていました。
いきなりではありません。
だんだんと、ゆっくり。
私の気持ちは上書きされていきました。
なぜか。
それを正確に把握することなど私にはできませんが、それでも、あえて予想をするなら。
私はハマってしまったんだと思います。
作品に、ではありません。
作者に、でもありません。
この世界の住民に、のめり込んで、自分を投影してしまったのです。
共感し、感動し、思いを重ねてしまったのです。
それは紛れもなく作者の技量でしょうし、この作品へのかけた愛の強さでしょうし、それほどたくさんの思いが込められた故——
そして、私は、いつの間にかに、無意識の共感を覚えてしまったのでしょう。

例え。
一度でもそんな感情を覚えてしまえば、たとえどんな作品であっても、読者の負け。
次のページに指は勝手に動きますし、続きを追うため、自然と目は動きます。
まあ勝負の話では全くないので、この表現はどうかとも思いましたが、それでも、この話だって恋愛『勝負』なわけですから、惚れた腫れたで語る方が幾分かわかりやすいと言えます。
その部類で言うならば、これはもう完全に虜にされてしまったわけです。
メロメロです。
屈服です。
いやはや、完全にやられてしまいました。


まあ、長々とこんな風に語った感想文をまさか誰かが読んでいるとも思わないので、この辺で区切りますが、それでも一つ。言いたいことは——
『この作品は、とてもありふれていて、テンプレで、よくある話で、きっと予想外も何もない、どこかで見たような物語です』

『だからこそ、この作品はすごいです。なぜなら——それでもなお、このお話は面白いのですから』

以上。
長々と、人様の小説前で失礼いたしました。
ぜひ、ご一読してみてください。

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