15.ついにっ
目がぱっちりと覚める。ベッドから降りれば、スッと心臓が引きしまった。
寝坊、してない。でもドキドキが止まらない。
制服をいつもよりきっちりと着ようと思った。なんか、初デートの気分。
デート……ホルプリのライブに行くときも、こんな気持ちだった。そして、ライブ中は、ハグされたような熱い気持ちになって……
でも、トゥイシャイはもっとちがう熱い気持ちを届けてくれる、かもしれない。ホルプリのコピーといっても、完全にそうとは言えないから。(『TwinKle Shine』じゃ長いからそう略してる)
一体、観客にどんなドキドキとキラキラを、届けてくれるんだろう。ダンス、何度も見てるけど、本番だと舞台装飾や照明とかがあるから、もっと素敵になれるはず。
……よし、髪も整えたし、これでバッチリ。
舞台に立たないのに、どうしてもきっちりしないといけないと思っちゃう。ううん、勝負の日に、気を緩めたらアイドルに申し訳ない。キラキラに見合った、キラキラでいかなきゃ。
「おっはよー!」
「ひいいっ!!」
な、なんで第二音楽室に入った途端に叫ばれるかな!?
叫んだ人は、やっぱり沙月くん。いつも以上に顔が真っ白……いや、真っ青? 涙目になってるし、ガタガタ震えてるし。
「し、しゃくら、しゃん、おお、おはよう、ごじゃいましゅ……」
「どうしたの沙月くん!?」
「ただの緊張だ、いつものことだから気にするな」
気にしないわけにはいかないよっ、アイドルの最終調整もプロデューサーの仕事なんだから!
花城くんは普段のようにクールなままでいらっしゃる。わー、緊張とか知らないのかなー……やっぱりモテるから慣れてるのかなー……
「しっぱいしたらどうしよう……」
「あんなに練習したのに、失敗なんてありえないよっ!」
「でも、ぼくたちのまえはせいとかいちょうで、ぷろで、てんさいで……」
あああ、沙月くんってネガティブになるとひたすらだなあ!
そりゃ本番前になるとそうなるのはわかるけど、その状態で舞台に上がってほしくないよ。
きっと笑顔を作ったら、作り笑いなのバレバレだよ。動きまでぎこちなくなっちゃう。えーと、どうしよう、どうやって励まそう……
「せーいや!」
わしっ、と夢園くんが沙月くんをハグしだした。もちろんビクッと目を見開いた。沙月くんだけでなく、わたしも、準備運動を始めてた花城くんも。
「た、たいようくん!?」
「だいじょーぶだって! こっちも楽しんだら、観客も楽しんで失敗なんて気にしなくなる!」
「ほんと……? かし、とんじゃうかもしれないけど……」
「そしたらオレたちがカバーする! な、光輝!」
「……まあ、だからといって失敗していいとは言わない。
だが、失敗しても責めるつもりもない。構わず笑えばいい」
夢園くんが沙月くんを離すと、今度は力こぶを見せるように腕を曲げてみた。長袖のジャケットを着てるから見えないけど、夢園くんなら普通にこぶができてそう。
「星夜も強くなったって、ホラ、つくってみ!」
「え、えいっ」
声を出したわりに、力んでもどうしてもか弱く見えた。夢園くんがその腕を軽く押してみる。どうも固そうには見えなかったけど、夢園くんから見たら強くなったらしく、ニコッと笑って親指を立てた。
「なっ、強くなった星夜を見せてやれって! 今度こそ男らしいって言われるから!」
「……そうだよ。沙月くん、もしかして隠れて体力作りしてたでしょ? 日に日にバテなくなってるの、気付いてるからねっ」
「太陽くん……桜さん……」
だから、信じよう、沙月くんを……三人を。この日のために走って、ステップ覚えて、プロのアイドルにしこたま指摘されて、ギリギリになるまで練習を積み重ねたんだから。きっとその量は、プロと変わらないよ。
三人の出番を待ってるファンだって待ち構えてるんだ。その人たちの期待に応えるためにも! 応えれば『モテたい』って夢、叶うよねっ!
夢園くんが、沙月くんの肩に手をかけては、花城くんにも手招きをして、空いてる手で彼の肩を組んだ。それはまるで、休み時間の普通の男子の姿のようだけど、なぜか見るだけで胸がときめいた。
「桜も!」
「わたしも!?」
舞台に立つのは3人なんだよ?
「桜は今日まで、オレたちをプロデュースしてくれたじゃん! やっぱ、お前に頼んでよかった!
お前は、『TwinKle Shime』の4人目のメンバーだよ!」
4人目の、メンバー……わたし、アイドルになったつもり、ないけど。
でも、ふしぎとイヤじゃない。なんでかな。沙月くんのとなりに立ち、彼と、花城くんの肩を組むと、円陣の形になった。
アイドルとしての『TwinKle Shine』はこの3人がそろってこそ。でも、チームとしての『TwinKle Shine』は、わたしも入ってる。あーあ、いまさらになって、今回限りだなんてさびしいなあ。
もっと、高い場所に行けるような気がするんだもん、彼らとなら。
「じゃあ桜、なんかいいこと言って!」
「はあ!? 円陣組ませたの夢園くんじゃん!」
「だが、このチームの代表はお前ということになっている。書類上はな」
「無理して、気張らなくてもいいよ……ボクが言えたことじゃない、けど」
なんかいいことって、そんなにすぐ思いつかないわよ。ていうかアバウトすぎ!
こうしてみんなで円陣を組んでるってだけで、すっごく緊張してるのに!
もしかして、監督とかが言うような、タメになるようなことを期待してるのかな。残念だけど、そんな気の利いたようなことはいえない。ああいうのは、人生経験が豊富だからいえるんだよ。ベテランアイドルと若手アイドルのちがいって、そこらへん。
でも、若手にも、若手にしか見せられない輝きがある。よーし、整理がついてきた。
「えっと、夢園くんが突然、アイドルになりたいなんて言ってきて、最初はナメてるのかと思ってました」
フフッ、と花城くんが思いきり吹きだした。なんか、わたしの発言でよく笑ってるような気がする。
「おまえっ」
「わたしが来るまで、けっこうグダグダしてなかった? どうだった、そこらへん」
「ああ、俺たちを集めた途端、MVを見せては見よう見まねで踊ろうとして、盛大にズッコケたのは覚えてる」
「光輝まで!」
あははっ、そっちも見てみたかったかも!
発起人が二人を引っ張らなくて、なかなか練習がうまくいかなかったのも当然だよ。……わたしも、プロデュースうまくやれたのか不安だったけど。ユキくんに、『プロデューサーを変えたほうがいい』『アイドルを一番ナメてる』って、言われたけど。
でも、諦めるってことはしたくなかった。だって、今思えば、3人がアイドルに向いてないなんて言われてないんだもん。わたしの指導がダメだったとしても、3人はちゃんとアイドルとしては合格だったんだよ。
3人は、こんなダメなわたしを引っ張ってくれた。3人が諦めなかったから、わたしも今日までここにいられたんだよ。
「ホント、夢園くんはリーダーに向いてない!
けど! ……アイドルとしては、最高だよ。さすがだね」
アイドルは、笑顔と夢を届けるのが仕事。常に夢を見て、笑顔を忘れなかった夢園くんは、アイドルそのものだった。
もし、なれたら、わたしは……夢園くんの、ファン1号になりたい。プロデューサーとして未熟だったけど、それでも、ずっと、夢園くんを見ていたい───
「キラキラな笑顔と夢、届けよう! 『TwinKle Shine』!!」
「「「おー!!」」」
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