13.キラキラ輝く!!
夏休み終わりまで、あと一週間。
サッカー部は都大会ベスト8まで進んだけど、そこで止まってしまった、と応援に行ってた沙月くんからメールが来た。
その次の日から猛練習……と思ってたけど、やっぱりうちの学校はグラウンドが小さいから、野球部と陸上部と交代で使うのでほかの部が使ってる間に休むらしい。休んでばかりだからいい成績もらえないんじゃない……? なんて、行く先のない批評はわたしの頭の中へと消えた。むしろあの2人はそれを分かってるらしくて、部活がない日はひたすら走り込んだり、筋トレをしたりしてるらしい。花城くん家はトレーニングジムがあるなんてウワサがあるけど、ホントなのかな。
まあ、明日から猛練習するのは、アイドルのほうなんだけどねっ! ふっふっふ、最後の追い込みの練習メニュー考えたからこなしてもらうわよ……!
「しっつれいしまーす!
星夜くんいるよねー!!」
よね、って決めつけてるね……!
この挨拶は、やっぱり松岡くんのものだった。沙月くんは気弱だけど、友達作りは得意なほうみたい。
松岡くんの手には3つの紙袋がたかだかと掲げられている。ってことは、もしかして!
「ファッション研究同好会フル出勤で衣装を作ったよー! 喜べー!!」
「うおーっすげー!!」
もうできたんだ! 3人ぶんも作れるなんて、ファッション研究同好会ってすごい……! 松岡くんが仕切ったって思うと、女子力どころの問題じゃないっていうか!
夢園くんはさっそく松岡くんのところまで走り、紙袋をもらった。ビニール袋に包まれた、キラキラ輝いてるジャケットとパンツ、指ぬきグローブ、ブーツの3点が入ってる。これ、みんな手作りなの!?
「それじゃ衣装合わせをするよ。着づらかったら言って、直しとくから」
「早く着てえー!」
ぎゃーっ、いきなり脱ぎださないでよ夢園くんッ!!
間一髪で視界をシャットアウトできたけど、今のはさすがにありえない、と怒りたくなった。
ポコッ、とゲンコツを振るう音が聞こえたような気がしたけど、とりあえず第二音楽室の外へ退散っ!
「女子の前で脱ぎだすとかありえない!」
「っけね、ついクセで……」
「この生地、通気性がよくて、蒸れる心配がなさそう……」
「さっすが星夜くん、お目が高い! 夏場にパフォーマンスをすることを考えて、特別にプロ向けの生地を使ったんだ~」
「えっ、高くなかった?」
「うちが布の流通業やってるから、お小遣いで買えたよ♪」
「すっげー軽い! 動きやすー! ユニフォーム2枚着てるみたい!!」
うーん、聞き耳を立てると、どうやら着心地はいいみたい。そして、高い布を使ってる、と……松岡くん、そんなに協力してくれて、いいの?
なんてお礼をすればいいんだろう、何度感謝しても足りないよ!
「なにやってんの?」
わっ……! って、なんだ、竹内さんか。竹内さんこそ、なんでテニスラケットのバッグ持ってきたの?
わたしの疑問が見え透いているのか、バッグを床に下ろしてわたしの前に見せた。うわー、腕焼けてるけどほそ~い……!
「コレは撮影に使ったヤツ。で、なんで入らないワケ?」
あはは、相変わらず話し方が怖いなあ。わたしとちがって、背が高いし、派手な顔立ちしてるからかな……
教室の中で、3人が本番に着る衣装を着てる、と話すと、「花城くんの生着替え!?」と目を光らせ、鼻を強く鳴らした。ひいっ、アブない言い方! ぜったい本人に聞こえてるって!
「それより、竹内さんはまた花城くんを見に来たの?」
「それもあるけど、まあ一番は意外とアンタなんだよね」
えっ、わたし? ……わ、わたし、なにかした、かな……
思い出すように目を泳がせるけど、竹内さんはさらに声を低くしてにらみつけた。
「必要以上に怯えないでくれる? 取って食うつもりじゃないから。
夢園に頼まれたヤツ、作ってきたの」
えっ、夢園くんに? すると、竹内さんは大きなラケットバッグのファスナーを開け出した。すると、そこから出てきたのはラケット……ではなく、束になったうちわだった。
そのうちわの表には花城くんの顔、そして裏には『I?コウキ』と大きく縁取られた文字が青と水色の紙で貼られてる。
まさか、コレ、ライブで使うの?
「……さ、さすがだね……」
「ドルオタがドン引きしないでくれる?」
う、うう、そりゃわたしもユキくんに向けるうちわ作ったことあるけどさ……こんなに大量に作ってあるのは初めて見たよ。
「え、夢園くんが頼んだの!?」
「そう、コレをファンクラブで作ってほしいってさ。つっても、アイツ、花城くんのぶんだけでいいなんて言ったけど……」
その束の中には、ちゃんと夢園くんと沙月くんのぶんまで作られてる。
花城くんファンクラブの一人なのに……なんで、作ったの?
「あんまり花城くんを困らせたくないし、それに三人揃ってのユニットなんでしょ? ファンクラブ総出で箱推しになってやるよ」
は、箱推し……! つまり、ユニットメンバー全員を好きになること!
どうしたの、竹内さん! 過激なくらい花城くんファンなのに!
「アハハ、意外だって言いたげ。アタシだって最初はアイツの言い分に従おうとしたよ。
けど、今までの花城くんってさ、アタシらの応援をあんまり気に入らなかったっぽかったんだよね。たぶん自分の信じてる人以外がウザいと思ってるんだ。
けど、今年のサッカー部の都大会に出てから……花城くんったらアタシたちに笑顔振りまくようになってさ、もしかしてアイドルやってるからそうなったのかな、アイツらと一緒にやったからかな、なんて……」
都大会……サインをあげた後にやってたよね。
花城くん、アレで考えが変わったのかな。わたしのこと、プロデューサーらしいって言ってたけど……
プロデューサー、らしい、か……みんながアイドルらしくなってるのはみんなのおかげだけど、それだけじゃないっていうのが、すっごく伝わるよ。
「ありがとう、竹内さん! 本番、サイリウムとかあったら完ペキだよねっ!」
「オッケー、会場をファンとライトで埋め尽くしてやるよ!」
「あっれー、
「万里! ちょっと、アンタも本番コレ使いなよ」
竹内さん(下の名前、百奈っていうんだ。初耳)のようなファンや、万里ちゃんのようなアイドルを支える存在がいるから、アイドルはアイドルらしくいられる。
最初も、たくさんの人に感謝しようって思ったけど、きっとその時よりも強く思ってる。
だって、きっとこのドアの向こうにいる、勝負服を着たアイドルたちは、今までで一番かっこよく見えるはずだもん。
さあ、見てみよう。ファンたちの力を受けた、生まれたてのアイドルたちを!
入っていい、と言われ、そのドアを開けた。
真昼の太陽のような真っ赤なジャケット、しずかだけど澄んで星がきらめく夜空のような青いジャケット、キラキラと輝く太陽と星の光のような黄色のジャケットがまず最初に目に入った。わっ、まぶしい……!
アイドルって、衣装を着たら、百パーセントの力を発揮するんだ! ううん、みんなの顔つきが今までと違うんだ。
「……光輝さま……」
花城くんファンの竹内さんが、今まで呼んだことのない呼び方で花城くんの名前をつぶやく。光輝……さま!?
た、たしかに、花城くん、まるで王子様みたいだけど……夢園くんと沙月くんこそ負けてないよ。
「ヒューッみんな決まってる!
そういや団体名ってどうしてるの? 部活じゃないんだよね」
ふと、万里ちゃんがみんなに尋ねた。えっと、学校祭には『アイドルライブ』って登録したけど……なんかそれじゃ味気ないよね。
コピーしたから『HLD PLZ!』……なんか、ホルプリの名前を使うっていうのも違うなあ。
3人とも、ホルプリとはそれぞれ違う輝きを持ってる。ユキくんの弟である夢園くんさえも。
「ソレもオレが決めた!」
「えっ!?」
決めた、って、だからまだなにも聞いてないんだけど!?
夢園くんは、指ぬきグローブのまま赤いチョークを取り、黒板に長く直線を書き始めた。2文字目からは白……と思えば、次に黄色、また白、青、最後に白。
カッカッ、と叩きつけるように書き出したそれは、アルファベット……英単語だった。
「トゥインクル、シャイン……」
『TwinKle Shine』、と、一部を大文字に書いたそれは、まさに3人を表していた。って、『Twinkle』って星の輝きを表すんじゃないの? 『Shine』と合わないじゃない。
「いや、『Twinkle』は星の輝き、そして『Shine』は太陽の輝きのことも言う。2つの輝きを意味するなら、これでいいんじゃないか」
へ、へえ、そうなんだ。(英語ができないことを知られてしまった……)
万里ちゃんは何かに気付いたように黒板に指をさす。もしかして、大文字だけ色付きのチョークを使ったのって、何か意味あったの?
「大文字のTは『太陽』、Kは『光輝』、Sは『星夜』ってこと!? ひねってるね!」
「正解! やっぱオレ、オレらがホルプリのコピーっつーのはもったいないと思うんだ! オレらはオレららしくパフォーマンスする!」
「自分にしかない、輝き……」
うん、夢園くんはユキくんとは全然ちがうよ。まだユキくんには及ばないけど、その輝きはきっと天の川さえも、太陽さえも凌駕する。
『TwinKle Shine』……後で登録情報、変えられるか十和子ちゃんに聞いてみよっと!
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