4.プロデューサーになるっ!
「えっと、桜さんは、ボクたちの練習を手伝ってくれる……の?」
沙月くんがおずおずと尋ねてくるけど、もう今さら断ることなんてできない。ううん、断れるはずがなかった。
ついに恥なんて言い出したわ、あのボンボン生徒会。きーっ、思い出すだけでムカつく!
「アイツが生徒会長なのは知らなかったのか?」
「初耳! 生徒会とか興味ないもん」
一応、友達に新しく副会長になった子がいるのは知ってるし、お祝いしたけど会長までは知らない。まさか、あのムカつくメガネだったなんて……この学校も終わりね。なんかヘンなお付きもいるし。あの人は生徒会じゃないの?
「で、みんなはアイツを倒すためにアイドルになったっていうの?」
「そうなるな。アイツは、アマチュアにも才能を秘めている者もいるということを認めようとしない。コイツはただ、モテるためだけにアイドルになろうとしているが」
「そんなことねーもん!」
「コイツだって、磨けば兄以上の才能を発揮できるはずなんだ。俺は知っている」
だから、そのお兄さんってどんな人なの? まさか、夢園くんのお兄さんは、人気アイドル……?
なんで知らなかったんだろう、ドルオタであるわたしが、こんな身近にアイドルの身内がいるなんて。あれ? 夢園、って名字のアイドル、いたっけ……
「なーなー! そんで、オレたちに何が足りねーの? 踊るだけじゃダメなの?」
もう、わたしの一番気になることを置いてけぼりにしないでー!
と思いたいけど、正直今の三人の練習風景のほうが、もっと気になる。プロを越えるつもりなら、プロの練習をしないと! アイツがアマチュアだって言うのなら!
「……どうしよう……」
「はぁ!?」
わたし、あんな見栄張っちゃったけど……どうすればいいのかなんてこっちが聞きたいわよっ!
だって……わたし、ただの中学生なんだもーん!!
えっと、彼らには何をすればいいの? ダンス指導? 歌も歌わなきゃいけないよね? アイドルは……歌って、踊るだけじゃ、ないのは知ってるけど……
「さっきあんなこと言っておいてノープランなのか……」
「だって、わたしもあの生徒会長にアイドルを恥だって言われて頭にきてるのよっ! ギャフンと言わせたいっての!」
「いや、アイツがバカにしてるのはアイドルではなく、コイツだ。コイツがアイドルでモテようと言い、梅原がそれを鼻で笑った。俺には、太陽にも輝ける力があると見ている」
「へへっ、照れるじゃん」
花城くんも見えたんだ、夢園くんのアイドルのようなオーラ。
「も、って、お兄さんみたいに?」
「俺はコイツに協力したい。コイツの才能は今のうちに育てるべきだ」
花城くん、夢園くんのことを大事に思ってるんだね。でもなんで、さっきはあんな感じだったのにそう思えるの? この人、フツーに見てもただの男子……
……あの笑顔が、夢園くんの才能って、言えるのかな……?
「……わたし、夢園くんの才能、育てられるのかな……」
「わからないんだろ。それは俺も同じだ」
「大丈夫だよ、兄貴も最初はどうすりゃいいのか見えなかったって言ってたし!」
「もし、自分の強みになれるのなら……ガムシャラに、練習したいよね。
ボクも、強くなれるのなら、がんばりたい、な」
沙月くんが『ガムシャラ』なんて言葉使うとは思わなかった……
どうしてわたしに練習の手伝いをしてほしいと頼んだのかが、なんとなくわかった。単純に、アイドルにくわしいからできそうだって理由。アイドルを好きな気持ちと育て方はちがうのに。
でも……こんなわたしでも、できることがあったら、やってみたい……アイドルが生まれる瞬間を、見てみたい! それに!
「じゃあまずはどうすればいいのか……それは、とてもよく知ってる人が、身近にいるんだから聞かないとね!」
「お前、それが一番の目的じゃないのか?」
エヘヘ、顔がニヤケちゃってるからバレバレだね!
でもでも、プロにどんな練習をしたのかとか、普段からなにをすればいのかとか……家ではどう過ごしているかとか……聞きたいじゃん!?
「だから本音がダダもれだ、桜。正論のつもりのようだが、そんなミーハーな気分であの人に会わせていいのか……」
「いいんじゃね? 兄貴ファンが好きなのはマジだし」
「ぜひお願いしまっす!!」
「うん、とりあえず兄貴に聞いてみるわ!」
よっしゃーっ!! 超、超レアな体験ができる予感ー!! もう、ガッツポーズ決めちゃうよね。はあ、どんなアイドルに会えるんだろう……!
もう、この際誰でもいい! とにかく、アイドルなら!
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