3.アイドル、なめないでよね!!
あれから数日が経った、放課後。部活がある人はそれぞれ夏の大会に向けて練習をしているのが、図書室から見える。
図書委員のわたしは特にすることがない今、頭の中でホルプリの今度の新曲を無限でループしていた。あーあ、委員会決めるクジで適当に決まったから文句は言えないけど、ホントにヒマだなー。借りに来る人なんてほんの少ししかいないんだもん。ここにアイドルの雑誌とか置いてくれたら、アイドル好きの子が借りに来たりするかもしれないなー、なんてことも思いながら、校庭側の窓に顔を向けて頬杖をつく。一人でいるから、っていうのもヒマな理由に入るのかも。
中庭がよく見える二階からの景色はいつもと変わらない。卓球部が準備運動をしに、グラウンドを使わず中庭でランニングをしているのが見える。うちの学校はモテ男がいるとしても平凡な公立校だから、大きな大会で優勝したなんて話も聞かない。ま、平凡なほうがよっぽど平和よね。こんなに穏やかに過ごせるんだもん。
……ん? なんだろ、あの中庭のスミの3人組。あんなのいたっけ。
なんの部活? と気になって、司書席から立ち上がって窓からのぞき、じぃ~っと目を細める。
中庭がせまいおかげで、彼らがなにをしてるのかなんとなくわかる。……ていうか……誰なのか、なんとなくわかってしまった。
ホントに、アイドルになるために、踊ろうとしてるのだろうか……夢園くんたち。
三人がかたまりになって集まり、何かを見てからダンスのような動きをし始めてる。けど、夢園くんはふざけているのか、振り付けに流行りのギャグを加えて、沙月くんを笑わせた。そしてまたマジメに踊ろうとしても、遠目で見ては変な動きをしているようにしか見えない。もはや振り付けの原型がなくなっている。
まさか、練習してるつもりなの? 超グダグダじゃない。
でも、あの動きもしかして……ホルプリのデビュー曲『ハグして☆マイガール』なんじゃ……?
「ヒマだからサボタージュか」
「わっ!」
び、ビックリしたー! 誰か来てたの!?
あわてて後ろを振り向くと、入り口にはメガネをかけた男子と、頬を赤く染めてその人を見つめている男子がいた。上ばきの色からして、メガネが同じ学年の人、ニヤケ顔が一年生、だよね。メガネの腕には緑色の生地に、『生徒会』と白い字で書かれた腕章をつけている。堅苦しくてマジメそうだし、ホントに生徒会の人かも……
「フン、そんなにヒマなら俺が仕事をくれてやろう」
「光栄に思ってください♪」
うわっ、しかもエラそーな態度っ!(実際エラいんだろうけど!)話しかけられてからイヤな予感はしてたの!
光栄になんて、思えるかーっ!
最近生徒会選挙が行われて、役員が変わったばっかりだから、新しく就任していい気になってるのかな。あーあ、やだなー。うちの友達に役員になった子がいるけど、その子は全然エラそぶってないよ。彼女が生徒会長になればよかったのに!
で、(やりたくないのに)もらった仕事というのは、生徒会とともに委員会もメンバー替えをしたので、委員会活動の抱負を二百字以内にまとめるように、だって。学校の季報に載せるから、締め切りは一週間後。あーあ、めんどくさいったらめんどくさい!
でも運悪くコイツに押しつけられたんだから、やるっきゃないよねー。さっさと終わらせて、後になってあわてないようにしなくちゃ!
「フン、アイツら本気になってるのか」
ふと、メガネの生徒会の人が窓の向こうの人たちを見つめてそうつぶやいた。
なに、卓球部の人をバカにしてるの? たしかに目立った成績は残してないけど、本気になっちゃいけない理由なんてないでしょ? 生徒会の人が何を言ってるの。
「素人が無駄事を……」
は? 中学生なんだから素人で当たり前じゃない。
……あれ? この日との目線の先……卓球部じゃないっぽい? 今の発言を考えると、ただ準備体操してるだけの卓球部にはあてはまらないような……
「お前が先ほど注目していた、あの3人衆……部活がないからと言って、あのような教養にもならない遊びに時間を食い潰すとはとんだ暇人だな」
「いつも忙しい会長とは大違いですよね♪」
3人って、まさかあの夢園くんたちのこと?
教養にもならない……ね。そりゃ、今はあんなにグダグダだけど……
アイドルがどういうものか、まだ分かってないのかもしれない。家に着くまで、石をけり続けるようなさり気ない遊びと同じだと思ってるのかもしれない。
……夢園くんの、あの純粋な笑顔を思い出す。本気で輝きたい笑顔だった。デジャブを感じたっていうか、どっかで見たことあるような顔だったし……
あの笑顔なら、本当に、輝けそうに見えるのは、たぶん、同じ笑顔をする人が、わたしたちに希望を与えたからだ。
「あの人たちが、ただ遊んでるって言いたいの?」
「今のお前のようなものだ」
「全然、ちがうよ」
「あんた、会長にたてつく気ですか?」
ホンットーに、エラそうな言葉遣い。それが一番ムカついてる理由かもしれない。
ただボーっとしてるだけのわたしとは違うことくらい、知ってるよ。
「わたしだって、あの人たちにできるかどうかなんて、わからないよ。
でも……今のヒナ鳥のときから『できない』なんて、決めつけるべきじゃないと、思う」
もし、今のあの人たちの姿を見てそう思ったのなら、そんなこと思わせたくない。
アイドルは、たしかに最初からダイヤのように輝いてるはずなんて、ないかもしれない。きっとアイドルになろうと決めて、がんばった結果に、あんなにまぶしくなれるんじゃないかな。
昇りはじめたばかりはまだ目にとらえられるけど、頂点に昇れば、目がつぶれるほどに輝く。そんな、太陽みたいな存在に、意味がないはずがない。きっと実りを与えてくれるはずだから。
てゆーか、コイツに決めつけられるのが、シャクなの。
図書室を飛び出て、階段を下りる。中庭へとつながる昇降口へと走って……
三人の、前に立った。さっきの生徒会の人は図書室から高みの見物をしている。はあ、まったく腹が立つわ。このメガネたちにも、この三人にも。
「なによその姿勢! アイドル、なめないでよね!!」
「桜!?」
移動中に体育館に戻ったのか、卓球部はみんな中庭にはいなかった。三人に対してわたし一人、あの時と同じ構図ね。
「ダンスナメてるの!? バカにされてるんならマジメに練習して!!」
軽い気持ちで考えてるのはあなたたちもなのね……!
「え、は、はい、すみません……」
「俺たちに関わるつもりじゃなかったのか」
「バカにされるのが許せないの!
いい、アイドルがどんだけスゴイかって見せつけてやりなさい!」
「! ま、まさか」
わたしがにらみつけた先の図書室へと、花城くんも見上げる。
俺達エリート……つまり、完璧モテ男の花城くんもそれに含んだんだ、あの人。
「梅下!」
「梅原だ!!」
「そうそう、梅原田!」
「梅原! ですってば!!」
夢園くん、それはワザとなの?
へえ、あのメガネ、梅原っていうんだ。まあどうでもいいや。
「……桜、俺たちが今こうしているのも、アイツのせいだ」
「やっぱりアイツがムカつくこと言ってきたの?」
「端的に言えばそうだな。俺たちはその挑発に乗ったということだ」
「アイドルなんて意味がない……って?」
「まあ、似たようなことだ」
いつもクールな花城くんの声が低い。よっぽどあの梅原が嫌いなのかも。
夢園くんも、まるで初対面の人に威嚇するワンちゃんみたいにガルル、と怒りをあらわにしてる。沙月くんは……夢園くんにも、梅原にも怖がるように一歩ひいてる。
これから叫ぶのか、夢園くんは足を肩幅に開き、こぶしをめいっぱい握り、大きく息を吸った。
「オレだって兄貴みたいになってやる!! プロでもなんでも、越えてやるっ!!」
そう、よく言っ……
……兄貴?
「桜、俺たちに足りないものはなんだ?」
「まって花城くん、夢園くんのお兄さんってどういうことなの?」
「ちゃんと見てろよー! 学校祭で一番盛り上げるのはオレたちシロートだー!!」
「ちょっとうるさい!」
「学校に恥をさらすな」
「アンタもだまってー!!」
もう、話が進みすぎて、よくわかんないわよー!!
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