7.歌とダンス!
次の日。三人を連れていった先は、第二音楽室。第一音楽室よりせまいけど、向こうは吹奏楽部が使ってるのでこちらを使うことにした。(ちなみに、借りるのに生徒会の許可がいるんだけど、十和子ちゃんが手早く許可をくれた。ありがとう、十和子ちゃん!)
アイドルに必要なものその②、歌唱力! 本番は踊りながら歌うから、歌詞を覚えたり、上手く歌えるようにならなきゃ! 音を外したらカッコわるいもん!
……って、思ったんだけど、やっぱりどう練習すればいいかな……ピアノ弾けないし、歌が上手くなる方法とかこっちが聴きたいくらいだし……
「花城くん、音楽できるってホント!?」
「一応、バイオリンをやってはいるが……」
ば、バイオリン!! おぼっちゃまだー! はああ、そりゃイケメンだっていわれるワケだよ。スペックとオーラとしては、花城くんが一番アイドルらしいんだよねえ……
じゃなくって、それより!
「発声練習のときのピアノってどう弾けばいいかわかる!?」
ああっ、やっぱり「そこからか」って頭悩ませてる! だって、ピアノすらそんなに触ったことないんだもん!
でも、もしピアノも弾けたら、発声練習もできるかな~なんて……春にやった校内合唱コンクールだって、ただひたすら歌うだけじゃなくて、歌うのに必要な腹筋の力とか、声の出し方とかをきたえたんだし、アイドルだってそういうのができて当たり前、だって思うの。
ダンスも完ペキにだけど、歌だって、CDで聴いても「スゴいカッコいい!」ってときめくほどに完ペキに歌えるようにならなきゃいけない。だから、いきなり歌うんじゃなくて、最初に歌える状態になるようにしたい!
……そのために、3人に教えたいんだけど……やっぱり、うまくいかないなあ。
「悪いが、ピアノは嫌いなんだ」
「え?」
「弾けないことはないが、今はあまり弾きたくない。ピアノが弾けるヤツなら、藤田がいるだろう。彼女に頼んでみてはどうだ」
藤田、はクラスメートの万里ちゃんのこと。校内合唱コンクールで伴奏をしたほど、ピアノが上手い。それに合唱指導もしたし、歌に関しては彼女がスペシャリストなのかも!
……って、思ったんだけど。
「万里ちゃん、軽音部で忙しいと思うよ……」
なんたって万里ちゃんは軽音部のキーボード。学校祭のステージ発表に向けて練習を頑張ってる、と意気込んだのを覚えてる。そんな彼女に、わたしたちの練習の手伝いをお願いするなんて……
それに、花城くんがピアノを弾きたくないなんて、どうしたんだろう?
「藤田って桜の親友だろ? きっとOKしてくれるって!」
うーん、軽音部の練習にあんなに必死になってるのに、時間を割いてもらうのは友達としてどうなのかなあ?
花城くんのことも気になるけど……
「ほらほら、行ってみよーぜっ!」
「ちょっ、夢園くん!」
夢園くんがわたしの背中を押して、よいしょよいしょと音楽室を出た。もうっ、わたしの意思はムシなの!?
もしダメってなったら、わたし、3人のためにピアノ弾けるようになるからね!?(なんて言ったけど、ピアノが上達するまで何年かかるんだろっ!)
「歌の練習? いいよ、いくらでも付き合うよ」
「そうそう、やっぱ忙しいよね! ごめんね、ムリなお願いしちゃっ……
え? いいの?」
「だからいいってば、千香ちゃんのお願いなら聞かないわけにはいかないし、アイドルのプロデュースって面白そうだし!」
「万里ちゃんありがとっ!!」
ゆ、夢園くんの言うとおりだった! くーっ、持つべきものは心友だねっ!! 頼んでみるモンだねっ!!
……そう、だよね。夢園くんだって、わたしにプロデュースのお願いをしなかったら、あのグダグダのまま、だったんだよね……
この教室だって、十和子ちゃんの許可がなかったら使えなかった。みんなをアイドルにするのに、わたしだけの力じゃできない。
「だろっ、言ってみなきゃわかんねーって!」
夢園くんはそう言って、親指を立ててはにかんでみせた。そして、彼も万里ちゃんに感謝を伝えた。
アイドルはたくさんの人に支えられてるんだ。そのことを忘れないようにしなくちゃ。
とゆーことでっ。歌の練習は万里ちゃんに任せて、他に自分にできることはないかを模索することにした。練習の間、またノートとにらめっこ。
体力、歌唱力……あとはダンスレッスンだけど、十和子ちゃんは、アイドルには『カリスマ性』が必要って言ってた。プロのアイドルにある、カリスマ性……夢園くんのような、オーラ……彼は元々持ってるとしたら、あと二人はどうすれば持てるのかな……
ううん、花城くんはモテるほうだし、沙月くんだってよくかわいがられてる! もしかしたら、二人にもカリスマ性ってあるんじゃ……!?
なーんだ、心配することなかったじゃん! じゃあ、このままダンスレッスンさせれば、3人って完ペキなアイドルになるよね!
ダンスレッスンは、シロートだけどわたしが指導することにした。一応ダンスの完コピできるからね!
アイドルに必要なものその③、ダンス! 一番大事だから、たっくさん練習しないとね。
ホルプリのファーストシングル『ハグして☆マイガール』は、アイドルの王道を走るようなダンサブルアップチューン。Bメロのソロパートがそれぞれの見せ場になり、全員の個性のアピールができて、特にユキくんのウインクのところがもう最っ高にイケメンすぎて……!! って、それは置いといて。
練習を始めていくうちに、メンバーの踊り方に個性があることに気付いた。花城くんは正確に踊れて、沙月くんは動きがぎこちない。夢園くんは、よく失敗するけどバテる様子がない。頭がいいから花城くんが今のところ一番できてるけど、二人も負けてられないととことん振り付けを覚えていった。
一番見せるのはダンスだから、この練習は特に時間をかけて行った。
「ワン、ツー、スリー、フォー、ワン、ツー、スリー、フォー!
そう、夢園くんできてるよ!」
「よっしゃ!」
「みんな、踊れてるんだけど……」
「けど……何か、ダメなところとかあった?」
うーん、どうしてだろう。わたしが指導してから、ようやく様になったと思ったんだけど……
振り付け、ちゃんとMV通りに教えてるし……夢園くんには、なんか一番似てると思ったユキくん、花城くんにはホルプリのクールキャラのハヤトくん、沙月くんには末っ子キャラのユモトくんのパートを任せたけど、イメージが違ってたのかな……?
なんか、超イケてる! ……って、思えない。
「納得がいかない事があったら教えてくれ」
けどそれがどうしてなのかが、頭をひねっても出てこない。
わーん、こういう時、プロがいたら言葉にできるかもしれないんだけどー!!
「3人ともかっこいいのになんでー!!」
「えっ!!?」
真っ先に反応をしたのは、チークを塗りたくったように顔を赤らめる沙月くん。
「そ……そう言われるのは、はじめて……」
「あっ、いや、えっと、そういうことじゃ……!」
な、なんかヘンな誤解を受けられた! かっこいいのは本心だけど、だからって照れること……!
……照れる? 沙月くん、照れてるにしてはすっごく顔赤くない?
「沙月くん、熱あるの?」
「ち、ちがうの、ボク、緊張すると顔が真っ赤になっちゃって……」
そうしてしゃがみこんだ……というより、縮みこんだ沙月くん。声変わりしてるはずだけど、今にも泣きそうな声は女子より高い。
か、かわいい……強くなりたい、って言ってるけど、こうして見てると、か弱さが……
「って、なに夢園くんもニヤニヤしてんのっ!!」
「だって言われるの始めてだしさー! 桜から言われたら、やっぱオレアイドル向いてるんだなーって思って!」
「……そ、そうね! 言っとくけど、アイドルとしてはかっこよくなってるんだから! 別に、そういう意味以外で言ったつもりはないから!」
「何をあわてる必要があるんだ?」
花城くんったらドンカン! 沙月くんが顔を真っ赤にして照れた理由が『男としてかっこいい』と言われたことなのをわかってないのね!
「大丈夫だ桜、お前も十分かっこいい。俺たちのために、ダンスのコピーをしたからな」
そーゆう問題じゃない!
「ちげーよ光輝、女子はかわいいって言われるのがいいんだよ!
な、桜!」
そーゆう問題でもないっ!!
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