エピローグ
「アンコール! アンコール!!」
そうそう、ライブにはアンコールはつきものだよね……!
って思ったけど、残念ながらわたしたちはこの一曲しか用意してない。だから、アンコールは……
制服のポケットに入れてるケータイが震えだした。十和子ちゃんからかな?
「もしもし……」
「千香、やったじゃない! 大成功よ、と言いたいけどすぐ体育館に来て! ピアノ、片付けられたの!」
「ってことは犯人見つかったの!?」
「ええ、意外にも会長が見つけてくれたの。取材を蹴ってね……とにかく、早くそこに集まって、同じ曲を、今度は舞台の上で披露するのよ!」
ブツリと電話を切られ、のんびりしてられないと3人に同じことを伝えた。まだマイクは音を拾い、スピーカーからわたしたちの声が発信される。
追ってきた竹内さんが、ニコッと笑った。夢園くんも、言いたいことがわかったらしい。
「全員、体育館に集合ッ!」
「花城くーん!!」
「沙月くーん!!」
「夢園くーん!!」
「光輝さまー!!」
「星夜ー!!」
「太陽ー!!」
ビックリしたことに、男子も体育館でみんなの応援をしていた。サッカー部員も、そうじゃない人も。
プロとか、アマとか、関係ない。アマだって、こんなに人の心を震わせることができるんだ……!
そんな人たちもトリコにできる、『TwinKle Shine』は、今日限りの主役となった。いつまでも消えない、太陽と、星の光のように───
サイリウムを強く握り、ファンと、彼らと、心を一つにする。
夢園くんが、マイクを使わなくても響くくらい、わたしたちに投げかける。
「よーっし、アンコールも、盛り上げていくぞー!!」
「本当にすまなかった」
学校祭が終わり、生徒の下校時刻になったと思えば、会長はわたしたちのところにやってきて、頭を下げた。
やっぱり、ピアノのキャリーを隠したのは大和くんだった。会長が、自分の監督不行き届きだと自分を責めていたけど、会長は全く悪くないように思えた。
態度はウザいけど、なにもズルいことはしなかった。だから、たとえお付きの人がわたしたちのジャマをしようとも、それはお付きの人の責任でしかないし……そうだ、大和くんはどうしたの?
「アイツは今、姉にこっぴどく叱られている。俺からも叱ったが、アイツは姉が一番怖いらしい」
「そっか。でも無事にできたから一件落着だよ」
「……俺こそ、すまなかった。俺はお前をよく分かっていなかった」
花城くんも謝るなんてめずらしい。でも、あんなに怒る花城くんも意外だったな。普段からクールって思ってたのは、遠くから花城くんを見てたからかな。
「もういい。それほど俺はお前の眼中になかったってことだ」
「なー、梅野って光輝のこと好きなの?」
ゆ、夢園くん、それ今聞くこと!? ていうか、もはやわざととしか思えないよ名字の間違い!
会長は口を固く閉じ、わなわなと震えだした。え、顔、赤いんだけど……
「……梅原、くん……」
「お前とは品のある交流ができると思っていたっ!!」
「ひっ!」
おずおずと尋ねた沙月くんは怒鳴られてビクッと飛び、夢園くんの背後に隠れた。
つかつかと早歩きで逃げ出す会長。やたら花城くんに絡んできたのは、仲間意識というより、もっと別のものがあったのだと知ったのは、また別の話。
って、あれ、急に止まった。
「……お前たちの、パフォーマンス……
お前たちにはお前たちなりの表現方法があって……その……悪くは、なかっ……」
あっ、また早歩き。
もしかして……褒めたの、今?
なーんか、ギャフンと言わせるつもりだったけど、まあ、認めたってことで、こっちも一件落着、なのかな。
そして、舞台発表の投票は、百マス方眼紙に載せきれないほどにシールが埋め尽くされ、見事1位に輝いたのだった。副賞は賞状と小さなトロフィーだけ、だけどね。
「オレ、明日からモテモテかな!?」
「さあな、掃除の時間で野球しなければモテるんじゃないのか?」
「ふふっ……!」
「なんだよお前らー!」
ついでに……これが本当に最後。
校門の前に、黒い帽子にサングラス、マスクを着けた不審者がいる、って騒ぎがあったらしいんだけど、夢園くんがなんとか解決したらしい。ま、まさか、その人って……!
会いに行こうとしたのに、2人はさっさと帰ってしまった。もうっ、また会いたかったのに!
……でも、アイドルってなかなか会えないよね。まるで、鉱山にあるダイヤみたいに……売り場に行けば見られるだろうけど、買わないと手元に残らない。
そんなダイヤを、わたしは今日まで育ててた。いや、磨いてた、かな。すっごく、貴重な経験をしたんだ。
……次は、ユキくんに認められるくらい人を輝かせられたらな。
また……プロデュース、したいな。次こそ、人に夢をあげられる、アイドルを。
一日の終わりを告げる夕空が群青色に染まりだす。一面におおわれないうちに、家路をたどった。
空に浮かぶ3つの一等星が、あの3人のように思えた。
最初はただのタマゴでも、ひとたび燃え上がれば、キラッキラに輝くアイドルになれる。けれど一人じゃできないから、支えの存在が必要で、しっかり力を入れないと、伝わらない。
そして……彼ら自身が、誇りに思えるように、「オレたちは、キラめくシャインだ!!」って思えるように、彼らの成長を見届けることも、支えることになるんだ。
キラめかせよう、そのためにわたしたちもキラめこう!
輝け、みんな、あの星のように!!
(完)
オレたちキラめくシャイン! 唐沢 由揚 @yak_krsw
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