18.絶体絶命!
「誰かが持ってったとか!?」
「あの、おれ見たけど……」
舞台の進行係の人がわたしたちの元へと来た。そうか、会長の発表中もずっと舞台袖にいたもんね。
「梅原が弾いてる途中、誰かがそのキャリーを、階段に板を敷いて外に持ってったんだ。暗くて誰だかは見えなかったが……」
「ねえ、なんで看板の裏側汚れてるの!?」
「飾るぶんには問題ないけど、こんな雑に扱った覚えないよ!?」
わいわいと、次々とおかしな目に遭い、さわぎはじめる。
特に、ピアノを移動できないのがわたしにとってもまずい。
ファンクラブのみんなが、ついにピアノを押し出そうとした。けど、床に5センチほどのキズがついてしまい、十和子ちゃんが「やめて!」と声を上げた。
「やっぱりアレがないとダメよ……」
「つったってどうすりゃいいんだよ! このままじゃ踊れねーだろ!?」
「なにやら、緊急事態のようだな」
「イヤイヤ他人事じゃねーって!
なあ……もしかして、オレら、踊れない……?」
「そ、そんな……!」
まって、まだそうと決まったわけじゃ……!
でも、夢園くんの言うとおり、ここにピアノがあるんじゃ、十分に踊れない……
「……アイツ……」
花城くんが体育館入り口につながるドアを開けた。十和子ちゃんもついていく。わ、わたしたちも行かなきゃ!
やっぱり、そこには大人に囲まれてる会長がインタビューを受けていた。けど、彼らの間を割き、花城くんは会長の名前を叫んだ。
「梅原!!」
「今後も作曲を含めて……
どうした、花城。取り込み中だが」
「お前が卑怯な奴だとは思わなかった!」
「何を言うんだ!?」
わーっ、胸ぐら掴まないでー! アイドルはそんなことしないよー!
「あなた、本当に見覚えないの!? ピアノを置きっぱなしにしてるの、仕組んでないの!?」
「なんの話だ!!」
周りの記者もなんだなんだと注目し始める。わーっ、会長のことは苦手だけど、こんな目に遭わせたくないよー!
でも、会長は本当に何も知らないみたい、だよね……?
夢園くんと沙月くんが必死に花城くんを引きはがし、なんとか落ち着かせた。Yシャツが乱れたことを気にするけど、メガネをかけ直してるつもりなのか目の間に中指を置いた。……かけてないことに気付いて、眉間にシワを寄せた。
十和子ちゃんが舞台で起こっていることを会長に説明すると、腕を組んで頭を抱えはじめた。
「……なぜそのようなことに……」
「あなたは本当に関わってないのね。じゃあ誰が……」
「いや、心当たりはある」
「……まさか!」
その人を知っているのか、十和子ちゃんは高い声を上げた。誰なのかわたしも思いつかなかったけど、十和子ちゃんの反応からして、およそ1人、やりそうな人を思い出した。
「……橘、いや、大和と言うべきか……発表が終わればすぐ俺の元に来るかと思ったが、姿が見当たらん」
「じゃあ犯人は……!」
「大変です!!」
もう、今度はなんなのー!!
「準備に手間取ったせいで、生徒が体育館から出てっちゃいましたー!」
「もう発表が終わりだと思ったみたいです!」
う、うそー!!
このままじゃ、始められたとしても、花城くんファンクラブしか観客がいないよ……!
なんで……? わたしたち、今日のために、必死に練習したのに……!
たくさんの見られずに終わるなんて……そんなの、会長をギャフンと、言わせられないよ!
「……こんなところで……
こんなところで、終わらせられっか!!」
夢園くん……そうだよ、一番楽しみにしてたのは、他でもない、夢園くんだよ。でも、まるで悪あがきのように、ふりしぼった声だった。
……わたしも、同じ気持ち……どうにかして、たくさんの人に見てもらうには……!
思い出そう、こういうとき、ホルプリはどうしてたか……いや、こんな事ないけどさ!!
みんなに、キラキラを届ける方法は、きっと他にも……!
こういう時くらい、わたしのドルオタ知識をフル活用させなきゃ、今までの意味がないっ!
「そうだ!!」
なにも、舞台だけがアイドルが輝ける場所じゃない!
「みんな、作戦会議よ! 十和子ちゃんもついてきて!」
「えっ、でも……」
「おねがい、どうしても十和子ちゃんの力が必要なの!!」
3人と十和子ちゃんを連れていき、会長たちから離れた。
思いついたの、舞台以外で、たくさんの人に見てもらう方法!!
第二音楽室に集まり、わたしが作戦の全貌を話した。
みんなビックリしてたけど、十和子ちゃんはなるほど、と納得してくれた。
時間がないからぶっつけ本番しかないけど、3人ならきっとやれる! ……わたしも、やらなきゃ!!
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