俺が魔術の授業の中で特に磨きに磨いたのは『移動魔法』である。


つまり俺が優れた『移動魔法』の使い手になると、街から出るのも魔法で戻るのも魔法・・・という事で『誰も俺が街の外に出た事に気付いていない』という事になる。


 俺が街の外でしようとしている事は2つ。


 一つは『畑作り』である。


 作った畑を耕すのは隷属させたモンスターもしくはゴーレムである。


 もう一つは狩りである。


 圧倒的にこの世界の人間には食事としての肉が足りない。


 食生活を変えるだけで男女とも平均身長は20~30センチは伸びるだろう。


 当然身体能力も向上するが、魔力はどうなんだろうか?


 神は「人間の身体能力など伸びてもたかが知れている」と言っていた。


 身体能力が伸びても「対魔族」で大した戦力アップにはならないだろう。


 だが、俺は伸びるのは身体能力だけではないと予想している。


 元々いた世界でも「健全な精神は健全な肉体に宿る」という言葉があった。


 魔力を伸ばすトレーニングは、精神と肉体を鍛えるトレーニングだった。


 だとしたら頑丈な肉体が手に入ったら魔力も一緒に手に入るはずだ。


 つまり食生活改善はより強い魔力を産みだすという事になるはずなのだ。


 あくまで俺の予想通りなら・・・の話だが。


 『移動魔法』は使えるようになった。


 念のため俺が『移動魔法』を使えるようになった事は誰にも教えていない。


 実は『移動魔法』の術式は教官は教えられるが『移動魔法』は魔術教官も使えない難易度が高いものだったのだ。


 俺はまずは屋台とコンロを作った。


 しかし俺は日曜大工など日本でもやった事がなかった。


 その上、今の俺の体は4歳児だ。


 屋台作りは何日かはやってはみたが「こりゃ無理だ」という結論になった。


 4歳児は屋台の半分の高さにすら手が届かないのだ。


 ただでさえ日曜大工に知識がない俺が4歳児の体で屋台なんて作れる訳がない。


 俺は森の中で隷属させたオークやゴブリンに「こういう物を作れ」と壊れて打ち捨てられた屋台を見せて作らせた。


 モンスター達は生真面目に壊れているところまで再現した。


 こうしてどうにか屋台は作られた。


 コンロは魔術を封じ込める練習用の箱に火の噴き出す穴を円形に複数開けるだけだったので簡単に作る事が出来た。


 こうして調理設備は完成した。


 問題は売り物だ。


どんな屋台料理を売ろうか?


屋台での肉料理・・・ドネルケバブ?んなもん毎日食いたいか?


しかも俺がドネルケバブってもんを良く知らない。


結局シュラスコのようなモンを売る事にした。


アレだったら見た目も匂いも旨そうだし。


料理の方向性は決まったが肝心の『何の肉を焼くか』が決まっていない。


食べ物は無駄にはしたくない。


特に肉を食べる時の殺生は最低限にするべきだ。


試食はすべきだが、肉はスーパーでパック入りで部位ごとに少しずつ売っている訳ではない。


試食しようと思ったら、一頭魔獣なり猛獣なりを狩らなくてはならない。


「やはり大型の冷凍庫・冷蔵庫が必要だな」俺は特大の魔術を込めておく容器を学校で用意してもらった。


魔術の初歩を学ぶのに、魔力を閉じ込める箱を学校が支給する。


その箱は生徒の魔力の成長とともに大きな物が支給されるようになる。


俺に支給された箱はプレハブ小屋大の箱だった。


それくらい俺の魔力は大きかったのだ。


その箱が氷の魔術を閉じ込めたウォークインの冷凍庫として使われているとは魔術教官も知らない。


モンスターをいろいろ狩ってみた。


俺はその課程でレベルアップしまくった。


魔術で現れたモンスターを瞬殺していたが武器も防具も一切装備せずに丸腰であった。


防具は装備していなかったが、モンスターは俺にダメージを与えられなかった。


RPGで弱いモンスターに攻撃されて「ダメージを受けない!」って表示される事あるじゃん?あんな感じ。


冷凍庫の中はモンスターの肉で一杯になった。


モンスターの肉を色々試食したが、ハッキリ言って選べるもんじゃない。


牛肉、鶏肉、豚肉どれにも違う美味しさがあって「これが一番」と言うのは人によって違うだろう。


モンスターの肉も味に個性はあるが「どれが美味しい」という話ではない。


「マサオ、欲しい物はないの?」アバズ・・・母親が言う。


「弟が欲しい」などと言う年頃だろう。


しかし弟が出来るという事はこのズベこ・・・母親の股間から弟がヒリ出されるという事で、父親と母親が夜な夜なそういう行為をする、という事だ。


なんで俺が自分ではなく両親の性行為を熱望せにゃならんのだ。


ちなみに『マサオジャンプ』に登場するマサオの弟は『コージ』と言う。


駄菓子屋に置いてあった『マサオジャンプ』を見て「あれは『コージ』ではない。


『コージ』だったらローマ字のスペルは『KOJI』のはずだ。


あれは『KOGI』と書いてある。


『コージ』じゃない『コーギー』だ!」と言ってるアホがいたが、なんでマサオの弟が犬なんだよ?


つーか海賊版が何て言ってたって別に良いじゃねーか。


そんな事はどうでも良い。


俺は今、深刻に調味料が欲しい。


肉はモンスター討伐でいくらでも手に入る。


だが、塩と匂い消しのスパイスは試食の時と違い、ちょこっと家から拝借する訳にはいかない。


しかしこのビッチ・・・じゃなくて母親にどう伝えれば良いのだろう?


俺はいま調味料と金とそれを買いに行く大人が欲しい。


俺がお使いで買いに行けるだけの量だったら良いが、俺が店に行き「塩を5キロくれ」と言ったら「坊主ちょっと待ったれや、母ちゃん呼んでくるさかいにな」と店員は言うだろう。


まあスパイスは今森の中でモンスター達に作らせてる畑で育てりゃ良いけど、塩の作り方なんて知らんぞ?


テレビで見た事はあるんだ。


砂浜に塩水撒いて、トンボでならすんだよな。


・・・で、何でそれで塩が出来んの?


だいたい満潮の時そこまで海水来てるんだから、塩水なんて撒かなくても既に砂浜に塩水含まれてるはずだよね?


それに塩水含まれた砂をトンボでならしたら何で塩が出来るの?


何か塩に砂混じりそうじゃん。


考えたって塩の作り方なんてわからない。


wiki見りゃ載ってるのかも知れないけど、スマホないからな。


やっぱスマホもなしで異世界に転生すべきじゃねーな。


台所で拝借してきた塩をモンスター達に見せて「ホラこれと同じモンを集めてこい」と俺は言った。


本当にモンスター達が塩を集めて来れると思った訳ではない。


万策尽きて、何となくモンスターに言っただけだ。


五日後、何トンあるだろうか?


薄ピンク色の結晶のような物が森の中に積まれていた。


モンスター達が三山越えた先の塩湖から持って来たのだ。


「これは・・・岩塩だ」


よく焼肉屋で岩塩で肉を食わせる店がある。


岩塩のマイルドな塩辛さは肉料理に合うと言われている。


そうか、作らなくても天然物がそこら中にある世界なんだ。


現代日本みたいに開発が進んでいない異世界じゃ天然物の岩塩が簡単に手に入るんだ。


ちょっと待てよ?


調味料、香辛料も天然物があるんじゃないか?


昔ヨーロッパじゃ胡椒の栽培してなくて、アジアから金と同じ価値で輸入されてたって話をどっかで聞いたぞ?


つまり、中世と同程度の文明である異世界じゃ調味料、香辛料は未発達だ。


俺が調味料、香辛料を天然の植物から開拓していけば異世界に料理の革命を起こせるんじゃねーか?


別に「買えないなら作れば良い」異世界転移モノの基本じゃねーか。


こうして俺は10歳までの6年間、調味料と香辛料の自作と研究、畑での栽培に明け暮れた。


その間に日本にいた時に作っていた「自作みそ」風の「自作麦みそ」と「醤油風調味料」と「自作みりん風調味料」を完成させた。


思ったより時間はかかったが、ようやく異世界初の料理屋の屋台がオープン出来そうだ。

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