会話

「不味い、料理長を呼べ」その理屈がわからない。


んなもん不味かったら二度と行かないだけじゃねーか。


で、美味かったらまたリピーターになれば良い。


「そこに言葉はいらねーだろうが。


言葉が あるとしたら『美味い』『不味い』だけだろう?


そんなもん態度に出すのは『サービス代』って言って給仕で金取る場合だけだろう?


俺はここがそんな高級店だとは思わないから俺に対して『美味い』とか『不味い』とか言うのはただの時間の無駄だと思ってるんだよ」大将は昔言っていた。


俺も同意見だ。


しかし海原雄山って本当に性格の悪いヤツだよな。


大将は「美味いも不味いも個人の嗜好だ。


味の濃い物が好きなヤツもいりゃ、薄味の物が好きなヤツもいる。


俺が『この味を堪能してくれ』って店で提供したモノを『不味い』って思うヤツは絶対的にいる。


そう思うヤツには本当に申し訳なく思う。


だけど『美味しい』と思ってるヤツの前で『不味い』って言う性格の悪いヤツは二、三発どつくぜ?


そいつの味覚がどれだけ絶対的か知らねーけど、他人の楽しい外食を邪魔する権利はねーだろ?」と言っていた。


しかし赤ん坊が美味いと思ってるかは知らねーが、この母乳ってヤツは本気で不味い。


マシな味な時で薄い脱脂粉乳みたいな味だ。


俺は喋れない。


だが喋れたとしても「不味い、せめて魯山人風の母乳を飲ませて見ろ」とか言う気はない。


母乳が不味いかマシな味かは前日の晩飯のメニュー次第だと言う事が分かりだした。


俺を股間からヒリ出した女が前日に肉を食うと母乳は空前に不味くなる。


女が乳製品を口にしても、脂っぽくて不味くなる。


もっと牛乳チックなもんかと思っていたが、こんな味もへったくれもないモンだったとは。


AVの母乳モノで美味しそうに汁男優が母乳飲んでるじゃん。


そういや「母乳は血液みたいなモンだ」って話どっかで聞いたな。


しかし母乳が「美味い」とか「不味い」とか贅沢言ってるヒマはねーんだ。


俺はそのうち魔王と闘わなくちゃいけない。


その時に貧弱な体にならないように栄養を取らなくちゃいけない。


俺を股間からヒリ出した女・・・生まれ変わる前の自分よりも年下の女の事を「お母さん」と呼ぶのは抵抗があるが便宜上『母親』と呼ぼう。

喋りだした息子に『俺を股間からヒリ出した女』と呼ばれる者の気持ちを考えると、やはり最低でも『お袋』と呼ぶべきなのだろう。


俺も男である以上乳は嫌いではない。


だが性欲がないせいか、見慣れてしまったせいか乳を見ても何とも思わなくなった。


子供にはあまり性欲がないらしい。


『幼児性自慰』ってよく聞くけど、アレ『何か気持ちいい』ってだけで子供が股間触ってるのって興奮している訳じゃないらしい。


まあ新生児だからまだ『幼児性自慰』もまだ早い年齢だけど。


赤ん坊が笑うようになるのは早くて生後3ヶ月くらいらしい。


それが正しいか間違っているかは知らないが、それが俺の母親が知り合いから仕入れてきた知識だ。


俺の母親は俺の笑顔を楽しみにしているようだ。


俺は前世での母親の記憶はない。


物心ついた頃には父親との二人暮しだった。


子供の頃、育児放棄気味だった父親はたまに気が向くと俺に食事を与えた。


まあ、主に俺に食事を与えてくれたのは隣に住んでいた風俗嬢だけど。


風俗嬢はヒモ男に流産させられた子供の替りに俺を可愛がってくれていた。


風俗嬢は俺が6歳の時にヒモ男に捨てられて、首をくくって自らの命を絶った。


俺が料理の魅力にとりつかれたのは5歳の時に風俗嬢の料理を手伝ってからだ。


そして家で俺は料理するようになった。


父親は放っておけば食事が出てくるのだから、俺の料理を邪魔する必要はないと思ったのか俺の料理に何も口を挟まなかった。


食材は父親の母親から・・・父親は家から絶縁されていたが、こっそり祖母は俺に食費を渡してくれていたのだ。


その食費すら父親は「よこせ」と言い覚醒剤代にしようとした。


父親は俺が9歳~12歳までの間、刑務所に入っていた。


薬事法違反で3年も刑務所に入るなんて、再犯に再犯を重ねないと有り得ないらしい。


・・・にも関わらず出所してきた父親はすぐに覚醒剤に手を出した。


父親は『定食屋古田』にも「給料の前借りがしたい」と訪れたという。


その時は「給料の前借りには応じない」と大将に追払われたらしいが「本当に給料の前借りを坊主が望むなら応じるからな」と大将はボソッと呟いた。


話はズレたが赤ん坊の笑顔の話だ。


俺が笑わないし怒らないのは「その表情や感情に慣れていないから」だろう。


母親が俺の笑顔を望んでいるのなら、笑いたい。


愛想笑いは転生する前も出来ない事はなかったし「お前無愛想だな」と大将に言われて鏡の前で必死で愛想笑いの練習をした事もある。


しかし、母親に心から笑顔を向ける事が俺に出来るのだろうか?


というか俺が心から笑う事が出来るのだろうか?


心からの笑顔がいつ出来るようになるかはわからないが、生後二ヶ月頃俺は愛想笑いが出来るようになった。


「マサオ、おっぱいの時間ですよ~」母親が言う。


俺は特に何の感慨もなかったが百万ドルの愛想笑いを母親に向けてした。


「マサオは本当におっぱいが好きね~」母親が言う。


「テメー!このクソアマ!謂われのない中傷は止めやがれ!


俺は別におっぱいマニアではない!


どちらかと言えば尻派で、正確には『ふとももフェチ』だ!


それに企画モノで母乳モノはあまり見なかった。


俺の好きな企画モノは『マジックミラー号』だ!


本当に出るところに出て勝負したろうか?


訴えたら負けねーと思うんだが・・・。


テメーが『子供の笑顔が見たい』って言うからしょうがなく愛想笑いしてやったんだろうが!」


「あなた、この子なんか一生懸命話してるわ!


何話してるのかしら?」


「テメーに文句言ってんだよ!


このアバズレが!


まだ子供のクセに子供産みやがって!


親が泣いてるぞ!」


「本当だ。


何か喋ってる。


早くこの子と会話出来るようになれると良いな」父親が言う。


この時に俺は「赤ん坊は言葉がわからないから可愛いのかも知れない」と思った。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る