誕生
「しかし救世主ったって何すりゃ良いんだろ?
お前もそう思うだろ?
俺を股間からひり出したお前だよ」
俺はそう言ったつもりだったのだが、「オギャア!オギャア!」と言う泣き声になったらしい。
「元気な男の子じゃ!
左手の甲にアザがある。
夢のお告げではこのアザがある赤ん坊は偉大な王になるらしいぞ!」
占い師兼産婆のババアが言う。
「らしいもクソも全部お前の夢だろうが!
ババア大丈夫か?
ボケたんじゃねーか?」そう俺は言ったつもりだったのが、泣き声にしかならなかった。
しかしこのアザ、死に戻るたびに形変わったり増えたりすんのかな?
『時をかける少女』みたいだな。
最終的に令呪みたいな形になるんかな?
「自害せよ!アーチャー!」って言えるんかな?
しかし『正』って字に死に戻りする度になっていくなら、もうすでに書き順が違う。
漢字の書き順は横棒からが基本だ。
先ずたて棒からってバカ丸出しじゃねーか。
もしかしたら最終的に卑猥なマークになるかも知れない。
左手の甲に浮かび上がる女性器のマーク・・・イヤ過ぎる。
イヤだと思った瞬間に涙が溢れてきて「オギャア!オギャア!」と再び泣いた。
「赤ん坊は泣き声で会話する」という話は本当らしい。
泣く以外に感情の表出が出来ない。
何にしろ生まれたてだと笑う事も出来ないらしい。
「股からヒリ出してくれてありがとう」と俺は百万ドルの愛想笑いをこの女に向けるつもりだったのに出て来たのは「オギャア!オギャア!」という泣き声だった。
しかし俺を股間からヒリ出した女は日本にいた時の俺より数歳年下に見えた・・・というか本当に年下なのだろう。
この年齢の時の俺は何をしていただろう?
「うーんこ、うんこ」と作詞作曲した『うんこの唄』をエンドレスで唄っていた・・・いや、そこまで子供ではないにしても、犬の野糞を見てテンションMAXになっていた年齢とそうは遠く無かっただろう。
俺がうんこを見て興奮していた年齢にこの少女は俺を出産しているのだ。
「何でこの愚か者が救世主なんだろうか?」俺は自分の過去を悔いた。
いや俺は少女の年齢の時、性的な意味で未経験だった。
ごめん、ちょっと見栄張った。
俺は前世で死ぬまで性的な意味で未経験だったのだ。
少女は性的な意味で未経験じゃなかったからこそ、俺を股からヒリ出したのだろう。
・・・何という事だ!
異世界の若者の性は乱れている!
異世界に『セーフセックスウィズコンドーム』という考え方は広まっていないらしい。
・・・つーか多分異世界にコンドームはない。
「何と思慮深い顔をしているんじゃろうか?
この赤ん坊には『賢王』呼ばれた王と同じ名前『マサオ・ジャンプ』と名付けよう」
テメー!ババア!俺に『マリオブラザーズ』の海賊版と同じ名前つけてんじゃねえ!
俺は非難の声をあげようとしたが「オギャア!オギャア!」と言う泣き声にしかならなかった。
「あらあらこの名前気に入ったのかしら?
貴方は今日から『マサオ』よ」俺の母親らしき少女が言う。
「これが名前が気に入った泣き声に聞こえるか?
テメー、このクソアマ!耳腐ってんじゃねーか!?」俺は言ったつもりだったがやっぱり「オギャア!オギャア!」という泣き声にしかならない。
これが後に『勇者マサオ』と呼ばれる男の誕生秘話である。
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