お決まりの転生

 「目を醒ましなさい」


 「命令してんじゃねえ」


 「ひっ!調子のってすいませんでした!」


 「わかりゃあ良いんだよ。


 別に取って食おうって訳じゃねえ。


 普通にしてりゃ別にかしこまらなくても良いんだよ」


 「ありがとうございます・・・って神に対してあなた偉そうですね!」


 「神だと?俺は『お客様は神様です』って考え方が大嫌いなんだよ!


 俺の前で二度と神様面するな!


 大体『客と料理人』なんて『人間と人間』だろうが!


 お互い敬意を払えば何も問題ないはずだろう?


 どうして料理人がペコペコ客を神様扱いしなきゃなんねーんだよ?


 俺はそういう関係が一番嫌いなんだよ!


 逆に偉そうにしてる料理人いるだろ?


 アレも大嫌いだ。


 テメーは一体何様のつもりなんだ?って言いたくなるな」


 「私はあなたより偉そうな人を見た事がないのですが・・・」


 「偉そうに見えるか?


 そいつは申し訳ねーな。


 口が悪いのは育った環境のせいだ。


 躾も何も受けてねーんだ」


 「わかりました。


 私も偉そうな態度を取るつもりはありません。


私が偉そうに見えるとしたら、周りからそういう態度を取られ続けてそれに慣れてしまったからでしょう。


貴方は『人を神様扱いする』という態度が嫌いだと言いましたが、私は本当に神なのです」


「まあそうだろうな、トラックにひかれた後来るところと言ったら天国か地獄だろうよ。


で、その神様がこの穀潰しの息子に何の用だよ?


もう言われるのも慣れたし、俺もそう思うけどやっぱり『クズは子供もクズ』だと思うぞ?


神様が俺なんかと会話したら口と耳が腐るんじゃねーか?」


「貴方のお父さんは地獄へ行くでしょう。


ですが闇に触れても黒く染まらなかった貴方だからこそ救世主として選ばれたのです」


「俺が救世主?


ただの料理人志望の高校生だぜ?


『穀潰しの息子』って学校の教師ですら眉を潜めてる。


風呂に入る時にすら、全財産をビニール袋に入れて風呂場に持って入らないと俺の鞄や服の中まで、クソ親父が金目の物盗っていきやがるような環境で生活してたんだぜ?


そんなヤツが救世主になれる訳ねーだろ?」


「魔王の子供は魔王になります。


しかし生まれつき魔王の子供が邪悪な訳ではありません。


魔王に教育され、魔族に触れ邪悪になるのです。


しかし貴方は違います。


『盗っ人にも三分の理』と言うように魔王にも大義、正義はあります。


ですが、貴方のお父さんにはそれすらもない。


言ってみれば貴方は魔王よりも邪悪な存在に幼少期から深く関わっておきながら悪に染まらなかった」


「クソ親父から学ぶべきものが何も無かったからな」


「救世主の選択基準は身体能力ではありません。


正直、人間の身体能力などいくら優れていてもたかが知れています。


ましてや貴方の世界の人間は魔力を帯びていません。


貴方の世界の人間は魔物どころか魔獣、いや、少し狂暴な肉食獣にすら身体能力が優れているという者も歯が立たないでしょう。


そんな肉体能力の優劣は最初から求めていないのです。


我々神が救世主に求めるのは『魂の高潔さ』です。


強さは我々神の授ける少量の魔力で充分でしょう。


魂の高潔な者は『最強になるためのたゆまぬ努力が出来る者』です」


「『魂が高潔だ』なんて言われると思わなかった・・・ムズ痒いな。


・・・で、俺は救世主として何をすれば良いんだ?」


「我々神は人間界には本来干渉出来ません。


ただ敵対している魔族が人間界に勢力を伸ばしているのを座して見ている訳ではありません。


なので、間接的に救世主に力を貸しているのです。


『力を貸すも何も救世主を異世界に召喚してるじゃないか』と思うかも知れませんけど、我々神が貴方を召喚した訳ではありません。


そもそもここは異世界ではなく、天界です。


貴方がた人間が言う『死後の世界』の一つです。


我々神は異世界で救世主に転生する事が決まっている人間を呼び止めて、お節介にも魔力とギフトを渡そうとしているだけです」


「ギフト?


何だ?それ」


「人間である限り必ず命を落とします。


それは老衰であったり、病気であったり、戦争であったり、事件であったり・・・貴方のような事故であったりです。


ギフトというのは簡単に言えば『死に戻りの能力』です。


どんな救世主でも英雄でもミスで簡単に死んでしまいます。


我々神は人間のする事にはその場では力を貸せません。


なので前もって、魔力やギフトを授ける訳です。


しかし死に戻りと言っても限度があります。


死に戻りが出来る回数は三回だけです」


「ワンコイン三機な訳だな」


「?でも善行を積むと死に戻り回数が増える事があります」


「ワンナップする訳だな。


だいたいわかったけど、死に戻りってどこまで戻るんだ?


セーブポイントまでか?


どうすればセーブポイントは更新されるんだ?」


「???貴方の言っている事はサッパリわかりません。


やり直しは生まれた時です」


「うわ!やり直しは最初からかよ。


デスゲームじゃねーか!」


「?ですげーむ?」


「そうだ。


『死んだら最初からやり直し』のゲームの事を『デスゲーム』って言うんだよ。


『死んだら終わり。


二度とやり直しが出来ないゲーム』の事を『デスゲーム』って言うって思ってるヤツも多いみたいだけど、世の中で『デスゲーム』って言われてるゲームは最初からやり直しが出来るんだよ。


やり直しが出来ないゲームの事は『バグゲー』『詰みゲー』『クソゲー』って言うんだよ」


「はあ、何だかわからないですけど詳しいですね」


「ゲームは料理以外の唯一の趣味だからな」


「やり直しの時貴方が得た物、貴方が得た身体能力は全て失います。


しかし、記憶だけは持ち越す事が出来ます。


記憶が持ち越せないとただの同じ事の繰り返しですからね」


「なるほど、一度死んだら今度は違う事をする訳か」


「そういう事です。


しかし、違う結果には中々なりません。


貴方は違う結果を導くために失敗した時と大きく行ないを変えねばなりません。


しかし・・・最低でも三回死ねると言う事は『三回は死の痛みと恐怖を味わう』という事です。


貴方は既に一度、トラックに曳かれて死んでいます。


その時の痛みや恐怖や絶望感はまだ記憶に新しいと思います。


貴方はその時の感覚をこれから最低三回は味わう訳です。


『もう何度も死の恐怖と絶望と痛みを味わいたくない。そのギフトはつけないでくれ』という方のほうが多いですね。


確かにやり直しが出来ると言っても直前からやり直しが出来る訳でもありませんし、もう一度人生を最初から、しかも記憶を維持したまま赤ん坊から・・・とか発狂しそうになりますよね。


しかし、この『死に戻り』は貴方のための機能ではありません。


トライ&エラーを繰り返し、その結果世界を貴方が救えば良いのです」


「?頭が混乱してきた。


何でそれで俺が世界を救った事になるんだ?


俺が殺される、俺は赤ん坊の時代に戻る・・・そこまではわかった。


俺は『俺が殺された世界』では誰も救えないまま死に戻りして赤ん坊に戻ったって話だろ?


生まれ変わった世界では救世主になれるかも知れないけど、元いた世界は滅亡の一途を辿るって事だよね?」


「・・・賢い人は嫌いですよ。


並行世界は沢山ある・・・そう思っていると思いますが、実は救世主が生きている世界以外の世界は我々より遥か高位の神々によって破棄されます。


破棄された世界の人々は死ぬ・・・貴方はそう思うかも知れません。


しかしそれは正しくありません。


破棄された世界の同位体は救世主が産まれた世界で生きています。


破棄された世界は消えるのです。


死ぬのではなく救世主が産まれた世界が誕生した瞬間に消滅するのです」


「俺にはわかんねーや。


何で世界を消滅出来るほどの高位の神々が直接手を下すんじゃなくて、俺を救世主にしようとするんだ?」


「基本的に天界は人間界に不干渉です。


ただ邪悪な世界を滅ぼすような存在が産まれた時、最低限の干渉をして世界の均衡を保ちます。


それが救世主に力を与える事で、救世主のいない世界を消滅させる事なのです」


「なるほど、ゲームの調整はするけど悪い事したヤツの垢BANは最後の手段って訳だ。


でも運営が気に入らないから世界をサーバーごと消しちゃうのは越権行為だと思うぞ?」


「?本当に何を言っているのかわかりません。


とにかく!貴方は異世界の救世主として生まれ変ります」


神が言うと同時に世界がブラックアウトした。


どうやら俺は異世界に転生するらしい。

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