親子

 乳を沢山飲むようにしていた。


 早く成長すれば、この味もへったくれもない乳とは早くおさらば出来ると思ったのだ。


 しかし乳を飲むという事はそれだけ尿が出る・・・という事だ。


 俺はトイレには行けない。


 歩けないどころかハイハイも出来ないのだ。


 芋虫のように転がり何とかトイレまでいけたとして便器の高さまでは立ち上がれないし、それ以前にトイレの扉を開けられない。


 当たり前だが異世界には紙おむつがない。


 紙はない訳ではないが貴重品で精製技術も低く、製本に使われる紙の厚さは横にした米つぶほどの厚さだ、紙おむつになど出来る訳もない。


 異世界転移モノの定番で現代日本の紙おむつを異世界で再現する・・・などと言ってもおむつどころか紙の作り方すら知らない。


 というか紙おむつが作れるようになった時にはすでにおむつは必要ない年齢になっていると思う。


 という訳で俺は漏らすしかないのだ。


 ・・・ったく、何で俺が「放尿プレイ」「幼児プレイ」なんてマニアックな事をやらなきゃいけないんだ・・・。


 「欲しいものは何か?」という質問に答える事が出来るなら俺は『尿道カテーテル』と答えるだろう。


 赤ん坊が小便を漏らさないように尿道カテーテルを入れる・・・確かに日本でも聞いた事がない。


 そもそも異世界にはおそらく『尿道カテーテル』というものがない。


なのに母親は俺の羞恥心を考えずに「おしっこ一杯出たねー」などとのたまう。


ある意味児童虐待ではないだろうか?


まあ母親に下の世話をさせているのだ。


文句もあるが、感謝も申し訳なく思う気持ちも多分にある。


喋れるようになったらまず母親に「申し訳ございません、我慢出来ずに小便などを失禁してしまいました。


この愚か者に罰を与えて下さいませ!


毎度毎度申し訳ございません!


重ねて御詫び申し上げます!」と言うつもりだ。


前世では敬語が大の苦手だったが、これだけ喰っちゃ寝ての生活を送っていると、謝罪の文章の推敲以外にやる事はない。


何万回も推敲し直した謝罪の文章だ、おかしいところはあまりないはずだ。


両親は最初に喋る言葉は「パパ」とか「ママ」だと期待していたようだが、俺が最初に喋った時に「申し訳ございません、私が間違っておりました」と言ったという。


何もおかしい事はない。


こんな喰っちゃ寝ての非生産的な生活を繰り返し、前世の父親との違いは覚醒剤を注射しない事だけだ。


「この自堕落な生活態度を改めます」親に宣言し、改めるのは当たり前だ。


一点の曇りもない俺の想いは余所に、両親は本当に驚いて父親は「いえ、謝罪には及びません。


ご丁寧にどうも」と応えたという。

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