天啓

 料理でどうやって世界を救うのか?


 俺は日本の料理が異世界で必ずしもそのまま受け入れられるとは思っていない。


 カレー屋でインド人のフリをしているのはほとんどがネパール人だという。


 そしてそのカレーは日本人向けにアレンジされている事がほとんどで作られている物も作っている人もインド要素はかなり薄いという。


 日本だけでなくドバイでもカレーは観光客向けにアレンジされている。


 異世界でよく日本での食事を取り入れる話があるけど外国で日本食を受け入れてもらうのはそんなに簡単ではないはずだ。


 カリフォルニアロールが外国でウケたって「あんなもんは寿司じゃねえ!」と思う日本人は多いだろう。


 日本料理を海外でそのまま受け入れてもらうのは本当に難しい。


 ましてや日本の知識が皆無の異世界で受け入れられる訳がない。


 しかし受け入れられやすい料理もある。


 「甘いもの」「塩辛いもの」「甘辛いもの」だ。


 牛丼、かつ丼、親子丼、ラーメン、日本風カレー、焼き鳥などは受け入れられやすい。


 結局「味が濃いもの」は受け入れられやすいのだ。


 海外の人の味覚がおかしいのではない。


 「ラーメンを久しぶりに食べて美味しいと思う」「普段は食べていないコンビニ弁当を食べて美味しいと思う」「デパートの地下での試食を美味しいと思う」全て味の濃い物を美味しいと思った結果だ。


 それは民族、貴賤は一切関係ない。


 そして日本食独自の「だしの味」は受け入れられにくい。


 でも俺が料理でしたい事もある。


 中世は食事の栄養価も低く平均身長も低かったというが実は縄文人の身長は出土した骨を見ると現代人とほぼ変わらない・・・という事がわかるらしい。


 つまり農耕で穀物中心の食生活では体は育たないのだ。


 狩猟採集生活をしていた縄文時代のほうが、中世よりも体は育っていたらしい。


それに『仁』ってマンガの中で『昔の日本人は米ばっかり食べてたから脚気になりやすかった』と言っていた。


魔王は俺が倒すとしても、人々に魔王軍に対抗出来る強靭な肉体を料理で作らせる事は出来るんじゃねーか?


まあいいや。


俺は俺の出来る事をするだけだ。


だいたい授けられた力なんて、所詮借り物で俺の力じゃねーだろ?


俺は俺が磨いてきた料理の腕で勝負したい。


チート能力では勝負したくない。


「チートって言ったらプログラム的な不正の事だろ?


ケタ外れに強いヤツの事『チート』って言うなよ」とか言うアホがいるが、異世界転移モノでは「ケタ外れに強い」または「反則級に強いスキルを持っている」ヤツの事を『チート』と言うのだ。


派生して別の呼名、別の意味になるのは珍しい事ではない。


「日本の事を『ヤーブン』『ハポン』ましてや『ジャパン』なんて言うなよ、『ン』しか合ってねーじゃん」て言うアホと同じだ。


まあそんなアホはいないが。


俺は『デスゲームってそういう意味じゃないだろ』と言っていた自分を棚に上げた。


しかし料理屋を作るにしてもその資金が必要だ。


魔物討伐のクエストをギルドで受けて資金を貯めるのが常套手段だが、4歳のガキにクエストを請け負わせる訳もなく、俺がモンスター討伐のために街の外に出たら、逆に俺救出のための緊急クエストが組まれてしまう。


つまりモンスター討伐は金稼ぎにはならないのだ。


どうすべきか魔術の講義中考えていると魔術教官が教壇の前で言った。


「魔術とは体の中の魔力を外に出して様々に作用させる事です。


では、これは魔術の初歩中の初歩ですが、体の外に出した魔力を魔術にして手元の箱の中に閉じ込めて下さい」


その時、俺に天啓が下った。


「おい、この箱の中に火の魔術を閉じ込める事は可能か?」俺は魔術教官に聞いた。


「マサオジャンプ!


その横柄な態度を改めなさい!


・・・もちろんどんな魔術でも閉じ込められますよ。


あまり強い魔術はその容器を壊してしまうかもしれないですけど、魔術初心者はそんな事心配する必要はないでしょう」


「その容器を意図的に壊して火の魔術が漏れ出すようにするのは可能か?」


「可能も何も壊れた容器からは魔術が漏れ出します」


「・・・つまり電機もガスも使わない超エコロジーなコンロが出来上がる訳だ・・・」俺は小声で呟いた。


「その容器は大きさを変える事も可能か?」俺は続けて質問した。


「魔術が大きくなってくれば、容器を大きくする物です。


もちろん大きな容器もありますよ」と魔術教官。


「工夫次第ではオーブンも出来るし、氷の魔術を使えば冷凍庫・冷蔵庫も出来そうだな」俺は小声でさらに呟いた。


「マサオジャンプ!何を言っているのですか!?」


「普段だったら『俺をマサオジャンプと呼ぶんじゃねえ!』って言うところだが今日の俺は機嫌がいい。


良かったな!」


俺は機嫌が良かったので「何だ!教師に対するその態度は!」と言う魔術教官の怒鳴り声は一切聞こえなかった。



 

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