料理屋

やりにくそうに魔術教官が言う。


「さ、最初の能力なんぞ無意味だ。


最初にそこそこ魔力があってもそこから魔力がほとんど伸びない者もいるし、最初の魔力はほとんど無くてもそこから爆発的に魔力が成長する者もいるんだぞ?」


何をそんなに魔術教官がやりにくそうにしているかと聞かれたら、俺の魔力は最初から魔術教官の数千倍はあるからだ。


しかしこの魔術教官は何で4歳のガキにそんなにビビってるのかね?


魔王の力は知らない。


神がどの程度魔力を俺に授けたのかも知らない。


だけど神が俺に授けた力は人間の中ではまさに『ケタ違い』だったらしい。


「マサオジャンプ!何か言いたそうな顔をしているな。


言ってみろ!」魔術教官が俺を名指しで呼ぶ。


「特に言いたい事はねーですよ。


ただ俺をあんまり『マサオジャンプ』って呼ばねーでくれ。


クソみてーな海賊版になった気分だぜ」俺は完璧な敬語を使って丁寧に答えた。


この時代、庶民に苗字というかファミリーネームはない。


俺が王族であれば『マサオ・ジャンプ・○○』と言う名前になるだろう。


名前は「マサオ」、ミドルネームは「ジャンプ」、そしてファミリーネームは「○○」の部分に来る。


俺の名前は『賢王』と呼ばれた王から付けられた。


その王はミドルネームがあり、それが「ジャンプ」だったのだ。


王から名付けられた俺は苗字もないのに何故かミドルネームがあった。


苗字がないから右端にあるのになぜかミドルネームと呼ばれるヘンテコな物があった。


俺は魔術師になろうとは少しも思っていなかった。


そりゃ、父親には『魔法使いになりたい』とは言ったが、実際には『魔力の制御のしかたを学びたいだけ』だったのだ。


魔力を制御出来ないと魔王は倒せないし、魔力の暴発に両親を巻き込んでしまう可能性もある。


というか魔法使い、魔術師では魔王は倒せない。


俺は救世主、勇者と呼ばれる者にならなくてはならない。


「いや俺、魔法に興味ないんで」


あ、俺「別に」って舞台挨拶で言った女優みたいに今感じ悪い。


俺が世界を救えるとしたら、元々持っている料理の能力と神から与えられた『死に戻り』の能力と魔力を使って・・・何すれば良いかまでは今はまだわからないけど。


とにかく俺は『死に戻り』の能力で相場の変動とギャンブルや宝くじの結果を知る事が出来るんだ。


バックトゥザフューチャーを見るまでもなく、それは巨億の富を産むってわかってる。


金にはそこまで興味はないけど、世界を救うような権力を手にするのに金は必要になるし、邪魔にならないんじゃないか・・・と思う。


いや、異世界に転生して一回目の生で世界を救えてしまえるならそれに越した事はないけど。


まあ何にしても力で、魔力で支配する気はない。


力で支配しようとした者はもっと大きな力に滅ぼされる・・・いや、知らねーけど多分そうだ。


「お、お前は魔法に興味ないなら何になるつもりなんだ!?」魔術教官は聞いた。


「う~ん料理人だな」俺は言った。


「お前は王城に勤めるつもりなのか?」魔術教官は言う。


何言ってやがるんだ?


何で俺が王城で料理人やらなきゃならないんだ?


話を聞いているうちに異世界の事情が少し見えてきた。


庶民に料理を提供する存在は酒場と屋台と宿屋だ。


定食屋、食堂、レストランというものは異世界には存在しない。


酒場や屋台では基本的に食べ物は酒のつまみとして酒場の従業員に提供される。


酒場や屋台で食事をする事もあるが、あくまでそれは飲酒のついでだ。


宿屋でも料理は提供される。


しかしそれはあくまでも宿泊客へのサービスの一環で、宿屋の従業員により食事は提供される。


つまり料理人という職業は王城にしか存在しないのだ。


「料理人、仕立屋、床屋はいざと言う時その刃物を持って皇帝を守らなくてはならない」シェンムーのセリフだっけ?


でも実際に床屋が「皇帝護りに来ました!」ってハサミもって来たら皇帝も「帰れ、そして死ね」って言うと思うぞ?


「いや、俺は庶民に料理を食べて欲しいんであって、王様に料理食べて欲しいんじゃねーんだが・・・」と俺。


「?つまり武器屋、道具屋みたいに料理屋を作りたいって事か?」魔術教官は言った。


そうか、ないなら作れば良いのか。


これが異世界初の料理屋が産まれたきっかけである。




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