筆者とは親しいのですが、本作はあるかもしれない未来の想像であり、祈りの作品だなという印象を抱きました。主人公の妻に対する想いが眩しいです。それでいて、話の構成はどこまでも客観的で、まったく押し付けがないのが素敵だなと感じました。お盆という普遍的なテーマをもとに書かれているので読みやすく、普段小説に親しまない方でもするすると入っていくと思います。
余計なものを削ぎ落としたような練れた文体がたいへん心地よく、高齢者の粛々とした日常の描写と調和していて、心が洗われるようでした。そしてラストのしかけに、パッと目が開かされ、読後ぽっかり暖かくなる。なにもないけど、確かに「ある」。たいへん佳い作品でした。
共に生活を営んだ大切な人がいない日々を、自分はどう送るのだろうか…。もしかしたら、この作品の主人公のようにはなれないかもしれない。でも、叶うならこんな風に歳を重ねていきたい…そう思って穏やかな気持になれる作品でした。
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