その災厄は祈りにも似て

これは、『いない』ものとして周囲に扱われてきた彼女の、胸の裡に秘められた物語です。

『いなくなる』こと。
ただそれだけを羅針盤のように抱えて生きてきた彼女に、病という本当の終焉が訪れます。そこで彼女は、真実がらんどうになってしまった自らの『箱』の中身を埋めるべく、あることを実行しようとする--。


空虚だったふたりが交差したことで、
想像しえなかった未来がつくられる。
たとえば、朱と青を混ぜると紫になるような不可思議に似ています。
それはとても愉快で、尊いものではないでしょうか。

ひたひたと迫りくる死を、朗らかに、そしてある種の嗜虐性に満ちた感情をもって受けとめる彼女は、たくましくもあり儚くも見えます。

彼女が遺したものは、彼を縛る枷ではなく、もしかすると彼の行くさきを照らす光なのかもしれません。
彼のなかで、彼女が生きつづけてくれることを願っています。