大切なひとに贈りたい物語

 このお話にでてくるひとたちは、みんな一生懸命で、でも素直になれなかったり、たぶんほんとうは傷つけたいわけじゃないのに相手を傷つけたり、とにかく器用ではありません。

 主人公の雪村月乃ちゃんは、おはなしのなかで、たびたび「無敵ボタン」なるものを押します。たとえばこんなふうに。


>--もう、何も考えるな。ボタンを何度だって押す。何度だって、何度だって、わたしは。

 こころのなかにあるボタン。これで私は何があってもだいじょうぶ、というボタン。
 そんなの押さなくていい、むりしておさなくていい、あなたが犠牲になる必要はないのだと、アストロは教えてくれました。アストロは、というか彼は、やさしくて勇ましい男(?)です。

 作中でだいすきな台詞、はっとする言葉はたくさんたくさんでてきますが、なかでも、ここがすきです。

>松波は悪くない。悪者のいる物語は苦手だ。

>「……俺はあなたがすきです。強いところも、優しいところも、そのまっすぐなところも」

 月乃ちゃんは、松波はわるくない、自分に余裕があるときはだれだって優しくできる、と言います。それはそうだけど。
 月乃ちゃんががんばる必要ないよ、とやっぱり思います。松波も月乃ちゃんも、がんばりすぎだよ。えらい。ふたりとも抱きしめたいです。
 このお話のなかで生きるみんなは、やさしくて、いろんなことを背負い込みすぎていて、もっと頼ってよ、と思ってしまうくらいです。

 大事なのに、なんでちゃんと大事にできないんだろう、と思うことがあります。大事なら、傷つけたらだめなのに、でもどうしようもなく相手を傷つけてしまうことがあります。

 この「月の弱き」というお話は、やさしくて、あたたかくて痛くて、やっぱりやさしいおはなしだと思います。
こころが弱ってしまったとき、いろんなひとに優しくできなくなったとき、そういうときに私はまた「月の弱き」を何度でも読みたいです。同時に、たくさんのひとにこのお話が届いてくれることを願っています。

 青葉さんのおはなしはどれもやさしくて素直できらきらまぶしくて、夢のなかにいるみたいです。でもそれだけではありません。この物語(にかぎらずですが)には、ひとの弱い部分も、うしろに隠していた感情も、たくさん存在します。なにかを抱えながら前をむいて、わたしたちが生きる場所はここだよ、と示してくれます。
 
 このお話がだいすきです。この物語が読めて、私はしあわせでした。
 最後に、青葉さん、「月の弱き」を
書いてくださってほんとうにありがとうございました。月乃ちゃんと松波が、いつかどこかでわらっていますように。