月の弱き

七野青葉

プロローグ あなたへ

 わたしは、タイムマシンなんていらないと思っている。


「タイムマシンは、必要としている人の前に現れるんだよ」

 その時のアストロの声は、夜の小さな星々みたいに、透き通っていた。

 彼の提案はすぐさまその場で断った。

 どうにか家に帰ってきたわたしは、ふらつく足でそのまま玄関に倒れ込んだ。

 タイムマシンなんていらない。絶対にいらない。だけど、わたしの心には、ただ唯一の人が脳裏に浮かんで離れなかった。


 あなたは、人を憎んだことがあるだろうか。人の不幸を、深く深く願ったことはあるだろうか。その人は、突然わたしの前から去っていった。そして、気がついたときにはもう、世界中のどこにも。どこにもいなかった。


 わたしは、その人を生涯許すことはないだろう。 

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