朝起きたら、私が死んでいた話

当たり前だと思っていた事に裏切られたとき、人は正気を保てるのか。
枠組みを疑う・常識を疑う・そして当たり前を疑う。
それができなかった果てに起こるかもしれない出来事への危惧を読みやすい文章で鮮やかに綴った一作だと思います。

これは私の友人から聞いた話です。

金持ちになりたいんだったら、金持ちのように振る舞うことが大事だそうで、友人は身なりを派手にして、(僕からすると)なんだかいけ好かないパーティーに潜り込んで有名人と酒を酌み交わしたりしていました。
「ふん、ただの見栄っ張りじゃねーか」と僕たちは彼のことをバカにしていました。
しかしです、あれから10年たち、僕の預金通帳がピクリとも動かないのと違い、派手な友人はいまやなんだか自己実現だののセミナーをやってるというではありませんか。
同窓会の二次会で、和民にフィットしたしょぼくれている僕たちに、彼は語りました。
「自分をすごい人間だと自分で騙すのが一番難しいんだ…続きを読む

……と言われて「はい、そうですか」という人間はいないだろう。
「自分ここにいるし」
「死んだはずです。あなた誰ですか？」
と偽物疑惑までかけられたら？

ありそうでなさそうで、やっぱりありそうな
背筋がゾクッと凍る、地味に怖い短編です。

あなたは胸を張って自分が自分だと証明出来ますか？

免許証？保険証？学生証？社員証？
いえ、そんな表面だけの証明ではなく。

あなた、という肉体と精神すべてがあなたであると証明出来るもの、ありますか？

私には、たぶんないです。