朝起きたら、私が死んでいた話
ポテろんぐ
第さいご話
これは私の友人から聞いたお話です。
学校のテストや仕事でよくウッカリミスをする方はお気を付けください。明日、朝起きたら、あなたは死んでいるかもしれません。
その女性は(以下、K)、ウッカリミスをよくする女の子でした。
そして、俗に言うYouTuberみたいな動画配信をして、可愛い顔をしていたし、割と人気のある子だったそうです。
「Kさん! Kさん!」
その日の朝、Kさんは、アパートの扉の強いノックで突然、起こされました。
夜の遅くまで生放送をしていたKさんが、眠い目を擦りながらドアを開けると、そこには数名の警官と大家さんが立っていました。
「あなた、Kさんの友人ですか?」
Kさんは「は?」と言ってしまいます。
「本人ですけど」と返事をすると、今度は警官たちが「え?」と顔を見合わせてしまいました。
警官は大家さんにKさんの顔を見せ、本人かどうか確認しました。しかし、
「どうでしょう。入居の日に会ったきりですので……」
そう言って不安そうな顔でKのことを見ました。
「どうかしたんですか?」
無理やり起こされて、本人じゃないと言われ、Kさんも怒り気味に尋ねます。すると、警官が
「昨夜、動画の生配信中にKさんが自殺したんです」
は?
Kさんは何を言っているのかわかりません。だって、Kさんは生きているのです。
その後、Kさんの部屋で警官と大家さんたちと動画を確認します。
すると、驚くことに本当にKさんが生放送中に首を刃物で切って自殺する動画が上がっているのです。
「何、これ!」
配信されているアカウントは間違いなくKさんのもの。昨日の生配信を終えた後に自殺する動画が追加されているのです。
Kさんは当然、誰かの悪戯だと思います。しかし、その後、警察の調べで動画には合成をした痕跡もなければ、Kさんのアカウントが複製されていることも、ハッキングされてもいませんでした。
別の場所からアップされた痕もなく、間違いなくKさんのパソコンからアップされた動画だと言うことです。
つまり、動画のなかのKさんは間違いなく、Kさんの部屋で自殺しているのです。
動画は実家のKさんのご両親にも確認してもらい、間違いなくKさんの部屋で、自殺したのはKさんで間違いないと言いました。
Kさんはカッとなり、警官の制止を振り切って、別室からその部屋へ飛び込みました。
Kさんを見て両親は当然、驚きます。
「お母さん、この方は自分をKさんだと言っているんですが……本人でしょうか?」
お母さんは戸惑いKさんを見ます。
「でも……」
しかし、その後に画面の中の自殺したKさんの映像を見ます。
「Kは死んでるんですよね?」
その後、母はKが実家に帰省してきた時に配信した動画を見ました。
「私もこれを放送しているのを見ていました。彼女とこの自殺した人が同じなら、画面の中の人はKです」
その後、動画が解析され、同一人物だと解り、目の前のKさんは偽物だと解り、母親は泣き出し
「あなた、誰なんですか!」
と、Kに飛びかかりそうな勢いで怒鳴ってきたそうです。
自分の親にも別人と言われたKは、DNA鑑定をしてほしいと訴えます。すると、
「鑑定の結果、あなたとKさんは別人でした」
そんなはずはないと詰め寄りますが、
「今の装置は、ほぼ確実に個人を特定しますので、ミスはあり得ません」
その後、Kの要望で嘘発見器でも検査しました。
しかし、KをK本人だと特定する質問は、すべて「嘘」だと機械は判定し、Kは間違いなく別人だと判断されました。
Kの部屋から、ルミノール反応で大量の血が吹き出たという証拠が見つかり、警察の捜査は「Kの遺体はどこに行ったのか?」ということになりました。
Kは死体遺棄の容疑で逮捕されてしまいました。
Kは絶望していました。
自分以外の人は誰一人、目の前のKを見ていないという事実にでした。
自分の親でさえ、目の前のKではなく、機械が与えるKという情報からKという人間を判断していたのです。
つまり、科学や道具を使わなければ、誰もKをKだと判断できなかったのです。
そして、もっと絶望したのは、
K自身も、自分がKだと証明する方法がわかりませんでした。なぜなら、K本人は今まで本当の自分の姿を見たことがないのですから。
鏡に映った自分か写真やビデオ、動画の、道具越しの自分しか見たことがありません。
本当の私って何なんだろう?
そう思うと、Kは大きな虚無感に襲われました。
もう、この世にKという存在を認識するものは何もありません。
Kは死体遺棄の罪で刑務所に入れられ、その後、精神病棟に入ることになります。
それから五十年後。
『人間以外の物質も嘘をつく』ということが科学的に証明されます。
例えばテストの選択肢でAに丸をつけたはずなのに、採点されて帰ってくるとBに丸がついていたなんてこと。
人間のミスではなく、解答用紙が嘘をついて、Bに丸を移していたのでした。
そしてKのように嘘を吐かれやすい人間もいることが解り、そういう人は「ボーッとしている」と周りからよく言われていたそうです。
友達の話では、Kは機械が嘘をついていたことが発覚し、約五十年ぶりに外の世界に出ることを許されました。
でも時が経ち、もう、Kを知る人は誰もいませんでした。
よく、ウッカリミスをする方、それは本当にあなたのミスでしょうか?
もし機械のウソだとしたら、起きたらアナタは死んでいるかもしれません。
朝起きたら、私が死んでいた話 ポテろんぐ @gahatan
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