第8話 へるす&ぷれいしゃる・えでゅけぃしょん? 【適削・連鎖鋸】

へるす&ぷれいしゃる・えでゅけぃしょん? =保健体育


 子供が嫌がる虐待とも取れる行為をする、プルチネッラのような人物は、実はこの世には非常に多い。そして、その事を咎められることはなく、それを生業とすることすら可能とされている。過去を遡り、現在に至っても、そして遠い未来においても、それは不変と思われる。


 時に、幼い子供が大声で泣けど叫べど、全力で嫌がり暴れ抗い続けようとも押さえつけ、その幼気いたいけな心を傷付けてしまえる事ができる。

 傷付けた後、アクマでも甘やかし、その警戒心を緩めた後、再度それは繰り返されるという。幾度も騙された後、いつしか同じ思いを味わわせる事に戸惑いを無くすことになろうとは、誰も知る由もない。


 子供らが大声で嫌がっても、力の限り本気で抗っても、泣き叫ぶほどに痛がっても、それは行われる。それが可愛いさからか、終了後にはなおさらの笑顔を浮かべているプルチネッラオトナが子供らをあやす場面を目にする事が多いと聞く。二度と来たくないと言い募ろうと、その後も幾度も地獄の如き修羅場へと子等を導くプルチネッラオトナ達。極稀に、地蔵菩薩の如きプルチネッラオトナも存在するとかしないとか。何分にも出会ったことがない。


 ただし、実行したプルチネッラオトナ達からすると、それはその者達の幸せを願っての行い。

 ただし、実行される側からすると、優しかったプルチネッラオトナ達が大悪魔アーチデヴィルを軽々と超越し、大魔神。否、超邪神イヴルゴッズに大変身を遂げた瞬間を目撃する。


 そして、それをされた子等がプルチネッラオトナになった時、自らの子等にも同じ苦痛を与え、味わわせてしまう負の連鎖が、実はそこここに存在する。中には、赤の他人にすら対価を取って施そうとする剛の者も、また実在する。(偏見)

 その時の心的外傷トラウマ精神的苦痛ストレスは、大人となったとしてもなお残り続け、その事を口にすることすら憚られ、耳にしたものは反射的に身を竦ませ、口を閉ざし、耳を塞ぐという。


 いかな霊長類最強であろうと、百獣の王を称する者であろうと、その事実を前にした時、負けを認め、絶望せざるをえないだろう。


 そして、どんなに偉くなったとしても、その行為を止めることは・・・難しい。たとえ、切り札の異名を持つ傍若無人とも捉えられる大権者ダイケンジャ=独裁的な権力者でさえも、それを制止させる事は、事実上不可能とされる。



 そして、それらの行いは当然、非合法イリーガルと思われがちだが、【合法】とされて推奨すらされている。


【要するに、現代医療を持ってしても根治が難しい、誰もが知るであろう、慢性の不治の病がテーマ】


   ・・・   ・・・   ・・・


適削てきさく連鎖鋸ちぇぃんそぅ

 唄の雄姉おねえさん ニューロニスト

 対葬の悪似異おにいさん プルチネッラ


 絶叫が木霊する坑道。象牙色をした白と黒の鍵盤の如きそれを、その一本一本を丁寧に優しく、ほっそりとしていて尚且、ねっぷりとした指先で一本一本を押して、その反応を確かめるニューロニスト。その指から伝わる感触と大気を震わせる絶叫を、心地よさそうに確かめている。周囲からは血が滾々こんこんと湧き、辺りを汚す。

 その白き象牙質なそれは、小人コドモの【巨人】の歯。アインズ・ウール・ゴウン魔導王国の麾下に編入され、食生活が激変したがために、蔓延した恐怖の引き金。

 時に拷問具として用いられることでも知られる開口器ギャグ。元々は、19世紀にあまりにも慎みがない客が多かったため、その客らを黙らせる目的で用いられたのが始まりという。もっぱら、客の口が開きっぱなしになるまで、注目を集めるためだという話だ。私語を慎むことが出来ない者達を黙らせる目的で、ギャグは生まれた。(ギャグの由来より)


 ニューロニスト・ペインキルは、笑いながら大声で唄う。


「裂いたぁあ~、割いたぁあ~、ぷ~るちねっらが最多さ~い~たぁ~」


 これまでの霜の巨人達フロスト・ジャイアンツは、主に雪と氷と肉食中心の生活を余儀なくされていた。

 一口サイズの生物なら何でも。そのため、とある生物は素材としての魅力は大いに欠けるが、下拵えが非常に容易なため、食材としては非常に好まれていたのだが、それらを口にすることは、魔導王が定めた法律に反することとなってしまったため、自粛されることとなった。

 その嗜好を代替する品として、それまでにはなかった味覚に興味が向けられた結果とその代償。


なぁ~らんだ~なぁ~らんだ~赤ぁ散血白ぉ骨歯黄色ぉ歯垢~」


 ぷるるんプルルンプルルルルンぷるるるるんぷるるるぷぷプルルルプププルルルププぷるるるぷぷぷるるるぷぷプルルルプププルルルププぷるるるぷぷるるルル


 謎に満ちた振動音とともに、空気が揺れる。


 ぶるるるるるブルルルルルぁっあァッア~!! ギュルギュルぎゅるぎゅるぅううぅゥウウゥううぅウウゥぎゅららららギュララララららぁっララァッ!!!


 プルチネッラが、魔動マジカル連鎖鋸ちぇぃんそぅを片手に、ニューロニストの美声の誘導ガイドを頼りにガリゴリと情け容赦なく、泣けど叫べど鼻歌交じりに削りまくる。歯茎を切裂き、修正不能と思われる歯をき、歯科医助手に任命されたプルチネッラの活躍する場が最多となった恐怖。


「どォ~のォ~歯ァ~ヮをォ~みィ~てェ~もォ~、穢いキぃタぁナぁイぃのぉ~?」


 その結果として、それまでに巨人たちにはなかった病気が蔓延した。その名は、不治の病【虫歯】。

 霜の巨人達は、【真っ赤】に染めた氷雪がご馳走だった時の感覚で、いつものようにむしゃむしゃと食べまくった結果、虫歯が蔓延した。


 魔法で虫歯を治癒することも可能ではあるのだが、一度でも冒された虫歯には無力。髪を切ったが、髪型が気に入らないからと治癒魔法を掛けても元の髪型には戻らないように、虫歯も直後は表面的には直せても、元を絶たねば余計に酷くなってしまう。

 結局は患部をゴリ押しで削り去り、充填剤を詰めることで完治したと思われがちだが、実はそれは対症療法の一環にしかあらず、その後も再発の危険を常にはらむ延命治療でしかないことを知る者は・・・まだ少ない。



 そして、歯磨きを怠るとこうなるという実演が示され、アインズ・ウール・ゴウン魔導王国の麾下たるエ・ランテルでは、虫歯になる者が激減した。その後、帝国でも実演されてから、歯磨きを怠るものは激減したという。

 副次的な効果として、公的な医療費に当てる予算も、ある程度は浮いたという。



 ちなみに、余談ではあるが、豪放磊落を地で行く、あのゼンベル・ググーが最も恐れおののいていたという。


 サメやワニの歯は、半永久的に生え替わり続ける。

 だが、虫歯になれば抜いてしまうしかなく、その歯を抜いたとしても、また別の歯が虫歯に蝕まれ続ける。その連鎖は容易に止まることなく続くために、ひときわ熱心に歯磨きを推奨し、励行れいこうしたという。


 一応、砂糖などの糖類を一切食べなければ、虫歯にはならないとされている。

 だが、一度でも禁断の蜜の数多の味を知ってしまえば、その誘惑から逃れられるものは・・・極僅かだと言えるだろう。



 ニューロニスト&プルチネッラが敢行する【虫歯】治療。その虫歯予防を目的として作成されたポスターは、この異世界に凄まじい効果を発揮したという。


【虫歯になったら、いらっしゃあぃ。や・さ・し・くぅ、治してぇ、あ、げ、ちゃ、うむちゅ~♪PON!深紅のベーゼ】=キスマーク付き

 如何な傷病であろうともゴッドハンドを振るい、根治不能な症例を覆せる名医であろうと、重症な傷病患者も意識があったならば、全力で両足で立って走って逃げ出しそうな【漢女医師】ニューロニスト。


ワヮワヮワヮ!はっはっはっ! いつでも君たちを心待ちにしているぞ!】

 魔動マジカル連鎖鋸ちぇぃんそぅを両方の手で片手持ちにガッツポーズを決めているPellisペッリス Vultusウルトゥス風(ラテン語で革の顔レザーフェイス)な扮装コスプレをしたプルチネッラ。これからどこか田舎アベリオン丘陵で家畜相手にスローたーライフを始めそうだ。


 どう見ても、どこから見ても、治す側ではなく、蝕む側にしか見えないのはご愛嬌だろう。

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