第6話 まじっく・しょ~? 【おまけ/いりゅ~じょん?】

 今度は子狼に着替えたリュート。


 舞台袖から、大きなシルバートレイ銀の蓋クロッシュを手にしたユリ・アルファが、ウェイトレスよろしくワゴンを押しながら現れ、一礼。


 ユリは何の変哲もないテーブルにそれを置くと、ドーム状の銀の蓋クロッシュを取り払うと宣言。


「ここにありますは、何の変哲もないビフテキ」


 ビフテキと言うには分厚く大きすぎ、肉塊と称したほうがいいだろう。


「これを、ちょっとずつ、消しま~す!」


 リュートの口上が後を繋ぐと、ユリは分厚く大きなビフテキをリュートの一口サイズに切り分ける。切り分けられた一切れを、ユリに「あ~ん」とカパリと開かれた口に食べさせてもらいながら、モゴモゴもきゅもきゅ。


 テーブルに置かれた皿にクロッシュが被せられる僅かな隙間から、ユリがフォークに1、2、3と刺して、そっと背中に回して隠し持っているのが丸わかりだが、観客はクスクスと笑うだけで何も言わない。


「わん」 パクリッ! もぐもぐ、ごっくん 「つ~」 パクリッ! モゴモゴ、パクリッ! 「ふりゃ~」と口元を隠しながら宣言。


 ユリがテーブルに置かれたクロッシュを取り払うと、【7切れ】分の隙間が交互に空いたビフテキ。一切れが小さめに切られているために、まだまだ残っている。


 おおっ! と微笑ましく拍手をする【心優しい】観客達。

 だが、一人だけ怪訝な顔を浮かべているユリ。自分が取った数よりも多く消えたこ事実。


 リュートはもぐもぐ、モグモグ、もきゅもきゅ、ごっくんと飲み込み、口の周りに付いた肉汁をユリにフキフキされながら、


「もっかい、消しま~す!」 パクリッ!


 その声に、ユリはまたもクロッシュをする僅かな合間に1、2、3。それでも、まだまだ肉は半分以上余っている。


ふぁんワン」 モグモグ ぱくりっ! ゴックン! ぱくりっ!

ふぅ~ツー」 もぐもぐもぐ ぱくりっ!

「・・・ふりゃ~スリー!」


 という掛け声で、ユリが再びクロッシュを取り払うと、残っていたはずのビフテキが最後の一切れを残し【消えて】いる。


 おおっ! と流石にどう変化したのかに気が付き、感心する観客。

 リュートは最後の一切れを、ユリにあ~んしてもらい、パクリ。


 ちなみに、一口分は【ナザリック】基準での一口=小振りなステーキ一枚分に相当する。それを一口に頬張れるのだから、その大きく開かれた口の大きさは、それ相応。


 ペコリと頭を下げるリュートとユリに向けて、万雷のような拍手が降り注ぐ。


 一方、ユリは、疑念をソリュシャンに向かってそれとなく伝達。

 その様子を見ていたソリュシャンは、誇らしげに胸の下で腕を組んで見守っている。



   ・・・   ・・・   ・・・



【種明かし】


 一方、いつの間にか席を外していたルプスレギナは、その手にお手製のビフテキサンドを手に定位置に戻ってきた。


「あら、ルプー。そのサンドイッチはどうしたの」


 ルプスレギナはちょっぴり考え込み、


「ん~、出現アピアリングしたっす」

「そう」


 そう言うと、そっとそのサンドイッチに手をかざし、一言。


消失バニッシュ

「へ? って、ソリュシャン!?」

「はい、種も仕掛けもあ~りませ~ん。ごちそうさま」

「まだ一口も食べてなかったっす! 返せ~っす!」


 コロコロと笑いながらその場を立ち去るソリュシャンと、せっかくの間食を消されたルプスレギナの猛抗議は続く。

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