第2話 まじっく・しょ~? 【シルクハット】

 シルクハット。それは何でも出てくる不思議な帽子。


 時に鳩を、時にウサギを、時に思わぬものが飛び出す帽子。逆に何でも仕舞える不思議な帽子でもある。


「でわ、次にご覧いただきますは、シルクハットから様々なものを出します。まずわ、マジック・ショー定番の鳩を!」


 プルチネッラが片手に持つシルクハットを杖で軽く叩くと、出るわ出るわ、鳩の扮装をした小悪魔インプがこれでもかこれでもかと「くるっぽぅ、くるっぽぅ!」と口々に叫びながら。嘴を模したマスクを付け、方々ほうぼうへと飛び去っていく。


 リュートはあまりの光景に拍手喝采! デミウルゴスは想像の埒外の事態に唖然とした面持ちの後、ニヤリと口角を吊り上げ、拍手。


 垣間見える舞台袖では、アシスタントに選ばれたトーチャー達が、飛び去った小悪魔インプを整列させ、次の準備に取り掛かっている。各々、手に手にウサ耳と尻尾にウサ手足袋を準備中。


 マジック・ショーは、常に驚きに満ちたものであることが望ましい。


「さぁ! 次わ何を出しましょうか? 何がいいですか?」


 プルチネッラはステッキの柄頭をマイクに見立て、リュートに尋ねる。


「んっとね、お花!」

「お、お花・・・ですか」


 プルチネッラはしばし逡巡しゅんじゅんし、舞台袖をちら見した。

 リュートの視線はプルチネッラに釘付けであるため、舞台袖には目が行っていない。気がついていない。


 舞台袖では、大わらわでそのリクエストを叶えるべく奮闘している。トーチャー達がバニーな小悪魔インプ達と共に。


 その様子を見るともなしに見届けたデミウルゴスは、クツクツと低く笑いながら助け舟を出す。


「では、私はウサギを出してもらうとしよう」


 助け舟が出されたものの、ここで折れてはナザリックの道化師クラウンの名折れ。どうするべきか、ここは機転を利かせるべき時。そして、はたと気がついた。


「・・・でわ、まずわ、リュート様のご要望にお応えします」


 デミウルゴスは、おや、さてどうなることかと窺うことにした。


 ドロドロとした効果音と共に、辺りにスモークが掛かり、リュートの目前にまで近づけられたシルクハットは、中が覗き込めないような角度で調整されており、リュートの視線が釘付けにされた。

 ドロドロとした効果音に紛れ、デミウルゴスの耳には、なにか大きなモノが這いずるような音が微かに聞こえる。

 プルチネッラはデミウルゴスに対しては、懇願するような手振り身振りジェスチャーを繰り返す。

 鷹揚おうように頷いたデミウルゴスの姿を確かめ、プルチネッラは合図を出した。


「でわ、イデヨ!」


 その掛け声とともに、リュートの視界にはスルスルと伸びる植物の芽のようなものが見え、それはスルスルと伸び、花が一輪、現れた。その花は、笑顔の花を咲かせた。


 遠近法による錯覚で、あたかもシルクハットから生えてきたように見せかける、正に子供騙し。


 デミウルゴスの視界には、スモークで見え辛くされた床に伏せた花冠の悪魔カローラが頭をもたげたのが見えた。花冠の悪魔カローラは背をそむけるように立ち上がると、その【頭飾り】を動かし、振り返ったその【頭部】は、引き攣るような満面の笑みを浮かべ、光り輝いていた。


 万雷のような拍手が巻き起こる。



   ・・・   ・・・   ・・・



 真相は、プルチネッラの視線が彷徨った際、舞台袖で照明を担当していた花冠の悪魔カローラに目が止まったのだ。

 幻術魔法を習得したその頭部は、生前の二つ名は文字通り、【輝く笑顔】の名を持つ演出家兼魔法使いだった。

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