第4話 まじっく・しょ~? 【おまけ/えんた~ていめんと】

 アインズは、デミウルゴスからの招待状を機に、第七層を訪れた。


「アインズ様、ようこそいらっしゃいました」


 既に到着していた他の階層守護者は、舞台の前に設置された玉座を囲むように整列し、並んでいる。


「デミウルゴス、歓待を受けさせてもらうぞ」

「はい、では此方へどうぞ」


 デミウルゴスはアインズの嗜好を考慮し、華美な装飾を控えた分、細かな細工が随所に施された玉座に座られたのを確認すると、辺りの照明が落ちた。


 アインズからすると、一瞬明度が一段下げられたような感覚を残し、ほぼ元通りにまで視界が回復するまでの間に、プルチネッラが舞台袖から舞台中央まで移動するのが見えていた。プルチネッラがスポットライトを浴びながら宣言を開始すると、明度が三段ほど引き上げられ、いささか眩しくも感じられる。


準備わ終わりれでぃ~・えんど至高なる死の支配者よお~ば~ろ~ど! 御笑覧いっつぁ・下さいしょ~ぅ・ますようたぁ~ぃむ


 そのように宣言すると共に指を打ち鳴らすと、独特のBGMミュージックが流れ始めた。


    ///   ///   ///


舞台裏方

 演奏は、エーリッヒ擦弦楽団。

 楽器選考は、ニューロニスト。

 今回使用した楽器はポットベリー/太鼓腹を共鳴胴きょうめいどうに用いての演奏らしく。パンパンに膨れた腹を見せるトードマン=バイオリン風や、魂食の悪魔オーバーイーティング=チェロ風、疫病爆撃手プレーグボンバー=ビオラ風、この日のためにとフォアグラのごときビア樽オヤジ=ギター風が並べられている。

 ちなみに、げんは合成された安定供給できる素材もあるが、あえて古式の天然素材にこだわった【羊腸ガット腸線カットグット】である。種族の年代ごとに、個体ごとに太さや長さが微妙に異なるそれらを、ニューロニストは巧みにふさわしい音階ごとに選り分け、微調整されている。あえていう、原材料は【羊】のはらわたである。

 それら全ては完全に裏方で、リュートには全て隠されている。


   ///   ///   ///


   ぷぷるぷるぷ~♪

      ぷぷるぷるぷ~る~ぅ♫

         ぷぷるぷるぷるぷ~るぷ~るぷ~るぷぅ~うぅ~るぅ~♬


 音楽とともに、プルチネッラは今度は真っ青に染まったマントを振るい被ると、みるみるうちにその体躯が縮んでいく。


   ぷぷるぷるぷっぷ~るぷっぷ~るぷぅ~ぅうるぅ~🎶

      ぷっぷぅ~るぷぅ~るぅ~ぷっぷぅ~るぷぅ~うぅるぅ~🎵

         ぷぷるぷるぷっぷるぷっるぷぅ~る~ぅ~うパァンッ!


 そのなんとも言えない間の抜けた音楽とともに、縮んでいた青いマントが翻ると、小さなウサギな魔童子マジシャンが現れた。


   ///   ///   ///


 舞台裏では、厳選された楽器の一つが爆ぜ飛び、急ぎ予備の準備へと取り掛かっている。どんな舞台ショーでも、何事にも突発事故アクシデントは付き物であり、楽器などには思わぬトラブルはつきものである。特に非情に鮮彩な楽器であったればこそ。その散り際すらも、鮮やかな赤色のナニカで彩られている。

 いかなる事情があろうとも、表の舞台に影響をおくびにも出さずに収めることが裏方の至命。あらゆる問題トラブルが起きようと、表舞台に影響を与えずに表沙汰にせず、解決に全力を注げることこそが、裏方である。

 たとえ、気圧を高め過ぎ、それを擦ることで独特の音を奏でるのだとしても。その繊細な圧力で爆ぜうるものだとしても。それが喜びにつながるのであれば、喜んで使い潰せばいい。代わりはまだまだ、捨てるには勿体無いが、使い潰せる程度には十分にあるのだから。

 その末路を見届けた生きた楽器達は、これから何が待ち構えているのか、トーチャー達が集め持つ物、飛び散っていた餓喰狐蟲王達を見て、恐怖する。

 さっきの音は、餓喰狐蟲王が活躍の場を与えられたことで、喜びのあまり爆ぜ跳び出してしまった時の破裂音。

 楽器調整チューニング担当は、餓喰狐蟲王。適度な張りと響きをになっている。


   ///   ///   ///


 些細ささいな異音が聞こえたものの、アインズの関心は表舞台に向けられ、感心したように拍手を繰り返し、デミウルゴスはアインズの横で満足そうに頷いている。


 その小さな体にあつらえられた黒の燕尾服に身を包み、小さくちょこちょこと動く三角帽子が常にアインズの正面を向くように微動している。

 魔童子がくるりと一周りすれば、帽子もその場でくるりとちょこまかと動いている。


 魔童子が帽子を取るように一礼すると、ぴょんとその手に飛び移り、共に一礼。そのまま腕を伝い定位置まで自分で移動していく姿は、なんとも可愛らしい。


 一際激しい喝采を耳にし、ふと視線を移すと、エントマが素顔で目をギラつかせている。嬉しいのだろう。


 そのまま両手を横に広げ、その手に何もないことを示すように手の平と甲をヒラヒラと見せると、手を合わせ、何かを握り込む仕草をする。


「わん、つ~、・・・すりゃ~!」


 と、緊張のあまり上擦ったのだろう掛け声を上げている。

 アインズは一生懸命にしているところを笑ってはいけないなと思いつつ、微笑ましそうに眺めていると、合わされた手の中でナニかがうごめくように、ピクピクとしだした。


 何があるのか、何が起こるのかを優しく見守っていると、ナニかが跳び出した。


「ぶわっ!?」驚きのあまり、思わず吹き出してしまった。


 蛍光黄色イエロー触手テンタクルが一本。捻れるような微妙な形でたぎり立っていた。一見、はたから見る分には、波打つような刃、デスナイトが持つフランベルジュに見える。だが、まったくの別物だということぐらいはわかる。


「デミウルゴス!」

「はい、如何なさいましたでしょうか。アインズ様」

「アレは・・・」


 デミウルゴスは主が何を問うて来ているのか、それを先んじて察し、応えられてこそ、至高の御方たるお方にお仕え出来るというもの。


「はっ、触手の檻・NATANEナタネより株分けした一株です。リュートが園丁ガードナー資格ジョブを得た折、祝賀の品として譲られたのだと」

「そ、そうか・・・」

「なんでも、芥子のマスタードケーンと銘打ったそうです」

「・・・なるほど、な」

「株分けした所為か、別個体となったようですので、個体名はナズナと」

「フ、ム」『ヤバそうなもんを、ホイホイ渡すんじゃない!』と叫びたいがなんとも言えず、頭を抱えてしまいそうになったアインズ。


 そんなアインズの内心を他所に、舞台ショーは進む。

 ブルブルと怪しい微動を見せつつ、横薙ぎに一振りぶぉおん切り返しからの切り上げぶふぉおぉんと振るわれる度に謎の怪音を上げている蛍光黄色なケーン

 杖というよりは、どことなく釣り竿に近い気もする。


 それに合わせるかのように、舞台袖から側転しながらプルチネッラがアクロバティックに跳び出し、バク転をして高く高く、リュートを軽く飛び越えて、その見た目にそぐわぬ体型で、トン☆ と軽やかな音を立て、見事な着地と共に見栄みえをキメる。

 その手には、捻じくれたような柄頭の杖を手に、リュートを迎え撃つかのように立ち塞がると、ドンッ! と石突を床に突くと、拗じくれた瘤状の柄頭が花開くように開き、ぬにゃにょにゅるんっ! とテラテラと真っ赤に染まった触手が三叉に生え現れた!


「さぁ、このプルチネッラを倒せるものならわ゛、倒して見せよ」

「いざ! しょうぶ~!」

「ホロ酔いのNATANEわ血に酔っている」


 プルチネッラはそう言いながら、三叉戟トライデントと化した杖を横薙ぎに振るうと、バシリときれいな型で受けるリュート。今度はリュートが切りかかり、プルチネッラも受け、交互に受けたり避けたりと、多彩な演武アクションを本気で繰り広げていく内、突然三叉戟の刃がぐでんとれた。


 あれ? とプルチネッラがしおれたツボミのようになった刃をつんつん。するとぼたぽたと何やら妖しい液を溢す。


「あ、酔ってる」ブンブンと振るうも、くにゃりとれる。


 それを聞いたアインズは、椅子の上からコケそうになり。デミウルゴスはツボにはまったのか、クツクツと笑いをこらえている。


   ///   ///   ///


 その理由は、至高の御方に舞台で御目見得することになり、ふるえるナタネを落ち着かせるために景気付けにと、シャルティアから振る舞いに持ち込まれた酒=血液をたらふく。ここしばらくは侵入者もなく、暇していたのも災いした=空腹。常には擬態し、不動なるを良しとする植物系怪物であるローパー。更にはそれまでではありえない、縦横無尽に振り回され、流石に完全に酔いが回っていたのだ。


   ///   ///   ///


 そんなことになっているとはつゆ知らず、プルチネッラから勝負は最初は型どおりだが、後は一切アドリブ、全力で挑んで来なさい、と念を押されているリュート。


「かくご~!」

「え? ぎ、ぎゃぃやぁあああ!」


 ぶすっと、いた。背中からでもなんでも、スキを見せたら駄目だから。容赦なく、刺さった。体格差もあり、絶妙な、ヤバイ位置に。

 そして、断末魔の叫びを上げながら、プルチネッラはどうっと倒れ伏した。


 在るや無きかはつゆ知らず、とにかく【刺さった】。そして、容赦のない追撃の燃え上がるような刺激が加わり、プルチネッラ悶絶。そのまま倒れ込み、杖をしっかりと掴んでいたリュートは、ビヨンビヨンと揺れている。その揺れが杖に伝わり ぴゅっと、プルチネッラの白い衣装が黄色く染まり、リュートのケーンも持ち手の少し先からポッキリと折れ、プルチネッラに刺さったものは奥へとのめり込んでいく。


 ヒクヒクと、痙攣を繰り返すプルチネッラ。唖然あぜんと落ちそうなほどに開かれたアインズの顎骨。咳込み、プルプルと震えるデミウルゴス。「きゃっ!」と目を手で覆うマーレだが、ガッツリと指は開かれている。「ミゴトナリ!」と絶賛するコキュートス。うっゎぁ~、と目を覆いたくなるアウラ。ふゎぁ~と息を吐き、今度試して見るでありんすとのたまって、アウラにどつかれたシャルティア。アインズ様の顎骨をお戻しして差し上げるほうがいいかしらと思案するアルベド。


「・・・折れちゃった!」


 どうしよう、とオロオロするリュート。自分がなしたことが何なのか、まだ経験の浅いリュートには、ナニも分からない。


 どうしようどうしようと悩むものの、倒れ伏したプルチネッラが崩れ去り、その側に無傷のプルチネッラ1/3×2体が現れた。スキル:自己犠牲サクリファイス=己の全身体能力ステータスを一時的に1/3まで引き下げ分身を作り出し、逃亡する緊急避難エスケープスキル。通称、敵前逃亡スキル。倒したのに何もドロップしないことで悪名を轟かすスキル。

 1/3サイズのプルチネッラ×2体と、刺されて倒れたプルチネッラ1/3×1体。


 舞台袖から現れた数名のトーチャーが担架タンカを手にプルチネッラ1/3×1体を運び出し、ついでとばかりにリュートが持つ杖にも【軽治癒キュア】を掛けたら、にゃにゅにょるん♪ と元通り♫


消失ばにっしゅ!」


 と一声かけると、ナズナはリュートの手首に巻き付き、細身の黄色い腕輪バングルと化した。


   ・・・   ・・・   ・・・


以下【想像=捏造】

 転移以前のプルチネッラの戦略は、主に妨害工作イヤガラセ速度スピード技術テクニックを極端に割り振ったスタイル。

 弩派手アクロバティックに何処にでも現れ、パルクールばりに何処にでも移動する。主に敵を翻弄する戦略タクティクス

 かつて、ナザリックが襲われ第七層へ侵入者が訪れた際は、ウザい程に窃盗スティールを仕掛け、音改’製不良在庫アイテムを押し付けて発破はっぱしたという。他にも、気付かれないようにすれ違いざまに小ダメージと状態異常を与えていったという。

 割と紙装甲のため弱いけど、しぶとい。



 ちなみに、悪魔ディアヴォロス三芒星トリアゴン トリア・プルチネッラ・コルソ=プルチネッラ三連撃という謎設定がアル。 ウソウソ

 一番が囮となり窃盗スティール、二番が大鋏で押さえ込み、三番がBOMを仕掛ける。


 流れ・水流(ながれ・すいりゅう)のイタリア語

 =correnteコッレンテcorsoコルソ



 舞台袖で何とか回復にこぎつけたプルチネッラ1/3。至高なる方の笑いが取れた、ならば全て良し! と破綻した性格を発揮。


 ナザリック関係者を笑顔にするためならば、おのれの身命すら差し出す献身ぶり。ただし、主に他人を差し出すことの方が圧倒的に多い。

 そのためなら、他者を使い潰すことは厭わない。それは相手にとって、我々の糧になれるのだから。


 ちなみに、プルチネッラはピザ・マルゲリータとナポリタンを好んで食べていたり。よく厨房に入り込み、ピザ生地を回して遊んでいて料理長にどつかれている。ピザ生地を広げるのは異様に上手いのに、最終的に笑いを取ろうとするため、途中で突っ込まれている。



ナズナ:触手の檻より株分けされたローパー

 花言葉:すべてを捧げる

 別名:ぺんぺん草

 リュートの左腕が定位置:緻密な編み込みの腕輪風に擬態している事が多い。

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