『高校生活パッとしないおれがハーレムチートの異世界転生！』……を捜査した刑事のメモ

『高校生活パッとしないおれがハーレムチートの異世界転生！』……を捜査した刑事のメモ

（手帳の最初半分はちぎりとられている）

平成26年9月4日（木）1000　行方不明届が出される/提出者：小野任男（47）/住所：杉並区浜田山1-8-3/株式会社オフィス・アイテムズ、営業課長/事務用品販売/妻と二人の息子/持ち家暮らし/行方不明人名：小野藤美（16）/美はヨシとよみ、フジヨシ/通報者の長男/駒場高校2年/身長168体重58/黒髪/学校指定の夏制服/校章（ギザギザ丸のなかに高）を胸ポケットにアイロンプリントした半袖のワイシャツとグレイのズボン/学校指定のローファー/眼鏡なし/最後に見た姿：平成26年9月2日（火）0730ごろ、駒場高校へ登校するため外出、連絡が取れず行方知れず/9月2日には駒場高校には登校していない/夏休み反動の家出かと思われる/両親は家出するようには見えなかったという/よくあること/

平成26年9月5日（金）/佐々木刑事と駒場高校を訪問/家出は行方不明人の背丈格好のデータを全国に流して見つかるのを待つだけのはず/昨年の福井での行方不明人事件が3年ぶりに無事発見された影響か？/署は行方不明事件に敏感/放置したと言われるのが怖いのだろう/家出を探すのに人を割くなど異例/人を出すにも生活安全課/なんでおれが！！！？→Ａ．今年度で定年だから/1200すぎ、教職員に行方不明人の友人関係を尋ねるも行方不明人はクラスメートとうちとけるタイプではなかったという/家出の可能性が低くなる→佐々木刑事はなぜだときく→泊めてくれる友人宅でローテーションを組めない/いじめの可能性？→失踪？/いじめについてたずねると教師たちの口は重い/担任教師：神山亜沙子（50）/行方不明人は部活なし/いじめの可能性を改めて否定/同じ組の生徒にカマをかけるが不発/いじめがらみの失踪ではないか？/とにかく目立たなかった→全員の証言に共通/1500署に戻る/監視カメラの調査報告→空振り/行方不明人住所近辺なし/登校に使う井の頭線の浜田山＝駒場東大前間の全監視カメラを見るも、行方不明人は映っていなかった/都内のネットカフェにはもう行方不明人の情報が流してある/そこでひっかかれば、捜査終了/

平成26年9月6日（土）/交通課からある報告→休日返上モノのネタ！事件性あるやも？/平成26年9月2日0740ごろ、東京都狛江市在住のトラック運転手浜崎一（34）が杉並区浜田町2丁目5-1柏の宮公園西側の庭球場外の道路で人をはねたと連絡→行方不明人の住所の近くで最寄り駅までのルートと重なる/時間もしかり/人身事故ではなく、ただの事故と処理/車は確かに前が破損していたが、そこから血液や頭髪は見つけられず/何より轢かれた人間がいなかった/交通課はただの事故として処理/どんな人を轢いたかの情報が抜けている/いいかげんな仕事/私と佐々木刑事でアポを取り、浜崎の勤め先→サウスポー運送（東京都調布市）へ/1130、サウスポー運送応接室で浜崎一を聴取/痩せ型でひどくおどおどしている/人を轢いたように大汗をかいている/轢いた（と見間違った）ものを教えるよういうと、ひどくしぶったが、ついに言う/命中/行方不明人と合致/奇妙すぎる偶然/仮説：ひき逃げ事件/仮説の穴：車からは血液は採取されず/1230　昼飯を菓子パン二つで済ませ、車で三分の修理工場へ/問題のトラック：三菱ふそうのキャンター/浜崎の主張通り、人のようなものにぶつかったへこみがフロントグリルを破損し、ライトが割れている/科捜研からかっぱらってきたライトを当てるが反応なし/念のため荷台にもライトを当てる→反応なし/結論：この車は人を轢いていないし、轢いた人間を運んでもいない/佐々木刑事「じゃあ、この車は何を轢いたんでしょう？」/佐々木刑事：踊る大捜査線を見て刑事に憧れた小娘/なんでおれがこんなのと組むのか？→Ａ．おれがうるさがたの鼻つまみものだから/佐々木刑事の主張：塗装が剥げた後がなく、ガードレールなり道に落下したものであれば、その破片があるはず/もっともな主張だが、そもそもそのぶつかった相手が見つからない/ヒトにしろモノにしろ/家出説が濃くなる一方、ネットカフェのどこにも引っかからないというのが気になる/キャッシュカードと通帳も残したままで家出資金が引き出された記録はない/家出少年の9割は自分の自転車を必ず乗っていくし、一番近いＡＴＭで貯金を全部おろす/自転車はまだ小野宅につないであった/徒歩で家出？/

平成26年9月7日（日）/ひどく暑い/高井戸東１丁目の藤原ハイツの駐車場監視カメラが問題の柏の宮公園西道路に浜崎一が運転する三菱のキャンターの姿をとらえていた/高井戸東1丁目31−43柏の宮稲荷神社に設置された監視カメラが公園西側へ歩いていく行方不明人の姿をとらえていた。/補足：神社では去年の放火とみられるボヤ騒ぎ以来、監視カメラを設置していた/浜崎の運転するトラックと行方不明人が問題の道路にほぼ同時刻に北と南から入っていったのは間違いない/そして、これが行方不明人を映した最後のカメラ/署は浜崎一を重要参考人として招致/急ぎすぎ/納得がいかない→状況証拠は浜崎をクロと言っているが、車の状況を見るかぎりシロ/最初の通報で人をはねたと自分から申告したのは捜査かく乱のためか？/浜崎と会った印象ではそんな小細工ができるほど太い肝は持っていない（これはカン）/せいぜい任意出頭を促すくらい：何かあったら責任取らされる/弁護士なし単騎で出頭してきた/浜崎には法的アドバイスをくれるものが誰もいない？/それが友達のいなかったという行方不明人とかぶる/聴取は第三取調室：担当は前田と平/横で見物→佐々木はデートがあるといって休んだ→刑事なめんなよ小娘/得るものはなし：浜崎の同じ主張→少年をはねたと思ったら、誰もいなかった。車がへこんでいた/前田が飴、平が鞭を担当の典型的な取り調べ/浜崎が消耗しただけだった/2200　聴取終了/

平成26年9月8日（月）1430　爆弾爆発：浜崎が自殺した/1130　開始の参考人聴取に来なかったので、サウスポー運送に電話をかけたが、浜崎は出社していなかった→狛江にある浜崎が借りているアパートの部屋から首を吊った浜崎が見つかった/遺書「ぼくは人をひいたかもしれない。殺したかもしれない。でも死体はどこだ？　ぼくは何をひいたんだ？　ひどく怖い」/署はひっくり返したような大騒ぎ/自白ともとれる遺書をどう解釈するかでひと悶着/前田と平がデスクワークへ/週刊誌の見出しが目に浮かぶ「消えた死体」「少年はどこに？」「杉並署の拷問刑事ＭとＴ」「杉並署の刑事は全員切腹」エトセトラエトセトラ/

平成26年9月9日（火）0900　浜崎の自殺でただの家出に捨て置けなくなり、捜査本部が設置される/管理官は白井次晴警視（ツグハルと読む）/杉並署からは20人が割かれる/訓令：一刻もはやく少年を見つけろ/本音：そして死んだ浜崎によるひき逃げ遺体持ち去り事件であったという証拠を見つけろ/それで警察の体面はかろうじて保たれる/1130　地取りと鑑取りが決まる。佐々木刑事と行方不明人の自宅へ/1200　やつれた両親。小学生の弟/応接間にて：ここでも最初の届を出したときと同じやり取りがなされる→あの子に限って家出だなんて。刑事さん。これはきっと事件です。あの子はきっと今頃どこかに監禁されているんです/泣き崩れる二親を前に佐々木刑事が席を立つ/両親相手にきき込み：息子さんは何か生きているのが面白くないと言っていませんでしたか？→（父親の返答）確かに無気力なところはありました。でも、こんなふうに親を困らせる子ではないんです/失踪前後にいつもと違ったことはありませんでしたか？　家のまわりを早歩きしてチラチラみたりした不審人物はいませんでしたか？　人の名前をたずねながら、あちこちの近所をまわっている人物は？/どれも空振り/うすうす分かった→両親の放任主義教育と放任されても度を超すことのなかった内気な少年/佐々木刑事、行方不明人の弟と戻る/戻ってきた佐々木刑事は行方不明人の部屋に来て欲しいと手招きする/両親の立ち合いのもと、行方不明人の部屋を見る/鑑識にパソコンが持っていかれたのを除けば、初めに見たときと同じ/漫画が本棚にびっしり並んでいる/佐々木刑事が訂正「これはライトノベルです」「ライトノベル？」/佐々木刑事は何冊か本棚から抜き出し眺める/漫画を小説にしたものらしい/行方不明人宅を後にし、佐々木刑事が「違う世界。違う自分になれたらいいのになって思ったことはありませんか？」「デカなんかならなきゃよかったと思うことはあるよ」「異世界転生っていうんです」「何が？」/「事故とかがきっかけで死んでしまうんですけど、まったく違う別の世界で生まれ変わるんですよ。それも女の子にモテモテの強い戦士にです」/佐々木刑事のキチガイとしか思えない仮説：行方不明人は浜崎の運転するトラックにひかれて、異世界転生した/佐々木刑事の説の盲点その1：異世界に生まれ変わるなら現実世界に死体が残らないのはおかしい/佐々木刑事の反論：じゃあ、行方不明人はトラックにひかれた衝撃で異世界にワープしたんです/佐々木刑事の説の盲点その2：人間はトラックにひかれたからといってワープしない/佐々木刑事の反論：でも、実際に起きているんです/そういうことを専門に調べている友人がいます/いつの間にか明日にそいつに会う約束をさせられる/時間の無駄だ/眠い/行方不明人が行方不明になって今日で一週間だ/行方不明になってから今日で一年だ、などと言わなくて済めばいいのだが/

平成26年9月10日（水）0900　地取りでの進展はなし/浜崎のトラックと行方不明人があの道路に入っていったこと以上のことは分からなかった/鑑識の報告：パソコンを調べた結果、事件性のあるものはなかった/1130　佐々木刑事の知り合いだという男と会う/氏名：龍宮寺安寿（間違いなく偽名）　職業：私立探偵　年齢は二十代後半　中肉中背でなぜかカワウソを思い出させる顔をしている/場所は龍宮寺のマンション/決して安くない家/両親が資産家/龍宮寺の部屋の一つはプリントアウトした紙で埋まっていた/日本地図が壁に貼ってある→丸いプラスチックの頭を持ったピンが九州に21本、四国に9本、本州に56本、北海道に17本/龍宮寺のパソコン：各県警の鑑識データや行方不明人のデータ/これは違法だというが、龍宮寺は薄笑いを浮かべるばかりで暖簾に腕押し/両親が資産家だとできることも多い/ピンで刺された事件は気味が悪いほど今回の事件に類似。行方不明になった人々（十代から四十代まで）。みな忽然と消え、その最後に目撃された場所では事故が起きている/調書の記録→人をはねたと主張　鑑識の記録→車に血液等の痕跡無し/この奇妙な偶然がこれまで隠れてきたのはどちらの事件もありふれた交通事故と家出として別々に片づけられたからだった/捜査本部にこれを持ってはいけない/出所をたずねられたらこたえられない→龍宮寺は逮捕される/異世界にワープ：一考に値せず/仮説：車に一切の痕跡を残さず人をはねるアングラ技術がネットか何かで蔓延し、それを使った快楽殺人では？/浜崎は行方不明人をひき殺し、覚悟が決まらず良心の呵責に耐え切れず、警察に参考人として出頭させられ、これまでと思い自殺/だが、それに飛びつく気になれない→なぜなら、それこそ捜査本部が欲しがっている筋だから/佐々木刑事と龍宮寺「どうしても異世界転生を信じないんですね」/冗談じゃない/悲しみ暮れる家族におたくの息子さんは異世界に飛ばされましたなんてヨタ吹くためにデカやってんじゃねえんだ/

平成26年9月11日（木）0900　確認作業/龍宮寺から行方不明事件と不思議な事故にまつわるファイルをプリントアウトしたものを受け取った/この3年で100件近い行方不明/この国では毎年8万人が行方不明になっている/それに比べれば微々たる数字/だが、謎めいた交通事故がついてまわる/どのドライブレコーダーも重ね書きされたり、事故の当日動かしていなかったり/出来過ぎている/確認作業/浜崎のパソコンから掲示板への膨大な書き込みが発見され、刑事が3人：それをひたすら読む/一日でいいから手伝ってくれと言われ、佐々木刑事とともに浜崎の書いた意味のない言葉を読む/そこに死体を埋めた場所があるかもしれない/血痕を残さず人を轢く方法があるかもしれない/あるいは何もないかもしれない/膨大な書き込みでは行方不明人も負けてはいない/小説投稿サイトの掲示板の常連/いくつかのメッセージをあちこちに入れている――メッセージの題名→「異世界に転生したいんですけど、誰か方法知りませんか？」/このメッセージが掲示板に載ったのは8月2日/失踪のひと月前/昨日の今日でまた出てきた/マウスを握る手が汗ばむ/返信を見る/返信者名：【もぐらたこ】　トラックに轢かれる。これ鉄板/返信者名：【海野　都】　トラックに轢かれろ。それか海の藻屑/返信者名：【赤い髪の剣士】　船に乗って海原を旅すると必ず難破して砂浜に打ち上げられ美少女に発見されるゲーム主人公がおってだな……　/　無駄な名前の羅列/【神聖キチガイ魔王】【マサヲ】【はるかぜサンバ】【安田安】/一つ、印象に残る返信/返信者名：【異世界の召喚巫女】　これは異世界に生まれ変わるための唯一の方法です。失敗したら死ぬので自己責任でお願いします。/その1　トラックに轢かれる/その2　そのとき監視カメラに写ってはいけない。誰かのスマホもだめ。ドライブレコーダーはＯＫ。こちらで何とかします/その3　転生したい世界を舞台にした異世界転生チートハーレム小説の第1巻の一番最初の挿絵のページを切り取って胸ポケットに入れておくこと/その4　これが一番大切。今の現実生活に不満があること。退屈感ではだめです。たいてい儀式に失敗して死ぬのはその4の要件を満たしていないために死にます。それでは、あっちの世界でお待ちしています。勇者さま/1800　佐々木刑事と小野宅へ/本棚の漫画みたいな本の1巻を片っ端から調べる/『高校生活パッとしないおれがハーレムチートの異世界転生！』18ページが切り取られている/2000　龍宮寺に電話/行方不明者たちが何らかの形でこの異世界転生方法を知った可能性はないか？/2100　龍宮寺宅。資料を受け取る/まるでこちらがその結論に至るのを知っていたかのよう/行方不明者で分かっているうちでも61名が何らかの形で【異世界の召喚巫女】から異世界転生の方法を知っていた/悪質な自殺ほう助/100件近く/悪夢/ひどく疲れた/眠りたい/テレビが911テロの追悼を映す/

平成26年9月12日（金）/13日の金曜日に一日足らず/0900　本庁の沢田警部に龍宮寺のもたらした情報を見せる/出所は伏せた/全国の行方不明者たち/絶望の現実世界/抑うつ状態の人間が普通なら信じることのない空想に身をゆだねて自殺？/愉快犯の可能性/沢田警部「これが本当なら特別捜査本部をつくって全国を対象に捜査を拡大しなければならない」→もう一押しが欲しい/行方不明者宅へ人をやり、異世界転生小説の1巻を調べさせるだけでもできないか？→時間はかかるが、やってみると約束/【異世界の召喚巫女】がどこから書き込ん

（ここからページがちぎりとられている）

（何か液体がかかり、文字の判読が難しい）

/　　　が　　　/　　実験　　　　/接続プロバイダから特定できず/存在しない携帯電話/まるでウイルス/死体が消える理由が分からない/管理官は【異世界の召喚巫女】を公開捜査するかもしれない/だが、死体がなければ実証は難しい/死体/

平成26年9月13日（土）0900　【異世界の召喚巫女】は公開捜査にはならないが、捜査本部から人を割いて調べさせることが決まる/子ども向け小説のページが破られていることと【異世界の召喚巫女】の異世界転生する方法が行方不明事件をつないでいる/筋としてはやや弱いが、いかにもゴシップ誌の好きそうなカルト話/オウム事件のころを思い出す/家出事件→参考人自殺→自殺ほう助→カルトの犯罪→？/週刊誌が【異世界の召喚巫女】を取り上げるのは時間の問題だろう/模倣犯が大勢生まれる/全国の行方不明者と今回の行方不明が同じ人間による自殺ほう助だとすると、人が足りない/人を狩りだせるだけの物証がない/死体が必要だ/1030より聞き込み/1日費やすも成果なし/

平成26年9月14日（日）/悪夢を見る/林道/夜/小説の1ページを切り取ってポケットに入れて、トラックを待っている/0900　捜査本部に手詰まり感/死体の残らない交通事故は【異世界の召喚巫女】の異世界転生が成功したという佐々木刑事の子どもみたいな仮説でしか説明ができないような気がしてくる/科捜研に全国の行方不明事件の車の破損具合がデータで送られる/解明ならず/

平成26年9月15日（月）/また悪夢/住宅街/夜/小説の1ページを切り取ってポケットに入れて、トラックを待っている/0530　起床。風邪気味/急な冷え込み：10月下旬並みの気温/関節がしくしく痛む/二人目の妻と離婚して今日で10年/ハッピーバースデー独身生活/0900　大きな進展/昨夜0200　秋葉原のネットカフェから【異世界の召喚巫女】が書き込み/匿名の情報/カン→龍宮寺か？/1030　秋葉原。問題のネットカフェは千代田区外神田1丁目9-6本田ビル3階「ふわとーしゅ」/コスプレ店員/カメラでブースに入る【異世界の召喚巫女】を確認/アニメの世界から抜けてできたような恰好/店員がみなコスプレしているから誰も不思議に思わなかった/【異世界の召喚巫女】は使用の際、住所を書き残していた/おかしい/簡単すぎる/これまで推定100件の自殺ほう助を接続プロバイダが追えない方法でやってきた【異世界の召喚巫女】がカメラに姿を残し、アドレスまで/模倣犯の可能性/【異世界の召喚巫女】のアドレス：名前はミリーナ・アルテミス。住所はアルカディア/佐々木刑事情報：これもアニメのキャラクターの名前でコスプレと一致する/支払いはカードだった/カードの契約者氏名：田中芳子　住所：神奈川県川崎市高津区下作延3丁目3-3メゾン・ド・カレ303/1500　田中芳子に任意出頭を求める/模倣を認める/それ以外の書き込みは知らない/自分も書き込みサイトで【異世界の召喚巫女】の書き込みを真似した/すでにネットの世界ではかなり知られている/今度の失踪/パソコンとスマホを調べるが、他の【異世界の召喚巫女】の書き込み履歴と一致しなかった/1900　龍宮寺から電話/「模倣犯のタレコミはあんたの仕業か」「まあ、そんなところです」/会う約束/2000　杉並区の居酒屋/相変わらずカワウソみたいな顔/「どうしてタレこんだ？」「異世界へ転生するための正しいやり方を捻じ曲げられないためです」「あんたは信じているのか？」「信じてます」「人間がある一定の条件をクリアして車に轢かれて死ねば、別の世界へ行ける」「黄泉の国を除いてですがね」/「彼らにとっては異世界に転生することは最後のチャンスなんです。四十三歳の無職で引きこもり。大学受験に失敗したニート。生きている実感を持てない高校生。彼らに生きるということを感じさせる最後の可能性が異世界転生なんですよ。信じろというのが無理なのは分かっています。でも、死んだら天国に行けると信じることとどう違うんです？」/「浜崎一。あくまで仮定だが、小野藤美がやつのトラックに飛び込まなければ自殺せずに済んだ」「確かに。彼の死は警察の追求と無関係でしょう」/いやみったらしいやつだ/「自分がいい目にあうために他人を犠牲にするのは逃げだ。逃げた先にあるものは死体置き場だけだ」/「厳しい意見ですね」「職業病みたいなもんだ。探偵にはないのか？」/2330　帰宅/9月4日以来の帰宅/眠るのが怖い/夢を見るのが怖い/

平成26年9月16日（火）/悪夢/海岸沿い道路/夜/小説の1ページを切り取ってポケットに入れて、トラックを待っている/0900　捜査が振り出しに戻る/捜査本部の刑事全員の頭によぎる不安：初動捜査の過ち/【異世界の召喚巫女】は追うべき筋ではなかったのか/偶然に頼り過ぎたのか/そう思えない→理由：悪夢/これまで事件がらみの悪夢はない/特別な事件/【異世界の召喚巫女】は無関係ではない/必ず何かある/疲れが取れない/昨夜はほとんど眠れなかった/酒の量も増えた/1200　【異世界の召喚巫女】による自殺ほう助が週刊誌に取り上げられる/文春、新潮、朝日/オカルト、青少年、自殺/異世界への転生の憧れ/捜査本部は参考人として【異世界の召喚巫女】の聴取をするつもりで捜索をしていると公言/オカルト世界の夢物語/侵蝕される現実/100件以上の行方不明事件/これは現実の出来事なのだろうか/100件以上の行方不明事件/100件以上の家族へ聞き込み/【異世界の召喚巫女】事件/マスコミがつけた名前/突飛/全国規模の捜査/悪夢/

平成26年9月17日（水）/悪夢/墓場の道路/夜/小説の1ページを切り取ってポケットに入れて、トラックを待っ

（かなりのページがやぶりとらえている）

（何か液体がかかり、文字の判読が難しい）

/　　/　　/　生/　　/　　/転　/　　/転生/転　/　　/転生/転生/転生/転生/転生/転生/転生/転生/転生/転生/転生/転生/転生/転生/転生/転生/転生/転生/失敗/転生/転生/転生/転生/転生/転生/転生/転生/転生/転生/転生/転生/転生/転生/転生/転生/転生/転生/転生/転生/転生/転生/転生/

（かなりのページがやぶりとられている）

　佐々木　妙　殿

　ちょうど一年がたった。小野藤美が行方不明になって、今日でちょうど一年だ。定年後もいくつか追ってみた筋はあったが、全ては不思議な交通事故と消えた死体。そして、【異世界の召喚巫女】にぶつかった。一年前には馬鹿げていると思った異世界転生の説をおれは今になって信じ始めている。先月、龍宮寺安寿がやはり奇妙な交通事故の後、行方不明になったのを新聞で見て、疑惑が確証に変わりつつあるなか、おれは本屋で『高校生活パッとしないおれがハーレムチートの異世界転生！』を買った18ページの挿絵を切り取った。主人公の少年が神殿のような場所で目覚め、少年を異世界へと転生させた巫女がそこにいる。水が流れ、白い大理石の柱が続き、女神か何かの像がある。小野藤美はこの光景を見たのだろうか？　小野藤美は今も異世界で幸せにやっているのだろうか？　残された謎に苦しむ人々がいることを知らないままで？　今のおれには何もない。刑事をやめてから、生きがいがない。謎を解きたい。そして、知りたい。彼らはどこに行ったのか？　本当に人間がこことは異なる世界へ痕跡残さず消えていくことなどあり得るのだろうか？　以前のおれならこんなバカげた仮説は一顧だにしない。だが、今のおれには分からなくなり始めてきた。おれは確かめるつもりだ。胸ポケットに本から切り取った絵を入れて、人気のない山の中の道でトラックを待つ。人間が本当に異世界に消えてしまうことがあるのかどうか、生まれ変わってしまうのかどうか。お前に確かめてほしい。

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　平成27年9月2日　

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　甲斐一郎

（新聞記事の切り抜きがホチキスでつけてある）

元刑事　トラックにはねられ死亡

2015年9月2日午後10時30分ごろ、東京都西多摩郡奥多摩町の林道で人をはねたという通報があり、警視庁奥多摩署が現場に急行。東京都杉並区の無職、甲斐一郎さん（60）が倒れているのを発見しました。甲斐さんは全身を強く打って即死。奥多摩署はトラックを運転していた東京都西多摩郡の農業相沢兵市容疑者（54）を業務上過失運転致死で逮捕しました。現場はほとんど人の通行がなく、亡くなった甲斐さんの乗用車がそばに故障もせず停車していたなど、その他不自然な点が多いことから奥多摩署は自殺の可能性も視野に入れて調べています。亡くなった甲斐さんは今年3月まで警視庁杉並署の刑事として勤務していました。