境内のベンチで休む三人。


 穂乃花は時計を確認した。二十分もすれば花火の時間。

 卓哉も察してか穂乃花の顔を見た。


 この境内の裏山に二人の秘密の場所がある。

 今から向かえばちょうど花火の時間に間に合う。


 穂乃花が立ち上がろうとすると、花が口を開いた。


「今日は本当にありがとう。それとね。もう一つお願いがあるの」


 穂乃花は何かを聞こうとしたが、花に手を引かれた。同じく卓哉も。


「ついてきて」


 花はそう言って二人を引き、歩みを進める。


 神社の横を通り、獣道に入っていく。


 穂乃花は少し驚いていた。

 いつもより強引な花に驚いたのではない。

 花が突き進んで行くこの道。

 これは、穂乃花と卓哉しか知らない道。


 花はどんどん進んでいく。


 そして少し開けた場所に出た。


 町の夜景が目に飛び込んでくる。下には境内が見える。


「ついた。……三人でね。一度ここに来てみたかったの」


 花は二人に背を向けたまま言った。


 穂乃花は卓哉に聞こえるように小さくつぶやいた。


「ここって」

「ああ。俺たちの秘密の場所」


「なんで花ちゃんが知ってるんだろう」

「分からん」


 戸惑う二人を他所に、一筋の光が空に昇った。

 そして、上空に大きく花開く。


「きれい」

 

 花はつぶやいた。そしてその場に腰を下ろす。

 二人もその両隣に腰を下ろした。


「小さいころお父さんによく連れてきてもらったの。でね、よくここでお母さんのお話して貰ったんだ」


 二人は静かに花の話を聞く。


「ここは、パパとママの大切な場所なんだって教えてくれた。お父さんはここで告白されたんだって。お母さんに」


 花火の明かりが三人を照らし、風が木々を揺らす。

 言葉に詰まったのか花はただ花火を眺めている。


「よし! それじゃここをもっと大切な場所にしよう!」


 穂乃花はそう言って急に立ち上がる。

 そして足元から小石を拾いこの場所で一番大きな木の側に立つ。


「この場所に私たち三人がいたことを記しておこう」

 

 そして、木に小石でがりがりと『穂乃花』という文字を刻んだ。

 卓哉も刻み、花も同じく刻む。

 

 すると花は涙を流した。


「私。もう行かなくちゃ」


 何処にと穂乃花が聞く前に、花は木を背にして二人に面と向かう。


「今日は本当に楽しかった」


 穂乃花は叫んだ。


「生きて!」


 なぜそう叫んだのかは分からない。

 でも、そう言ってあげなきゃいけない気がした。


「うん。会えて……良かった。それじゃね。ありがとう。お母さん、お父さん」


 花はそう告げると走って行ってしまった。

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