9
境内のベンチで休む三人。
穂乃花は時計を確認した。二十分もすれば花火の時間。
卓哉も察してか穂乃花の顔を見た。
この境内の裏山に二人の秘密の場所がある。
今から向かえばちょうど花火の時間に間に合う。
穂乃花が立ち上がろうとすると、花が口を開いた。
「今日は本当にありがとう。それとね。もう一つお願いがあるの」
穂乃花は何かを聞こうとしたが、花に手を引かれた。同じく卓哉も。
「ついてきて」
花はそう言って二人を引き、歩みを進める。
神社の横を通り、獣道に入っていく。
穂乃花は少し驚いていた。
いつもより強引な花に驚いたのではない。
花が突き進んで行くこの道。
これは、穂乃花と卓哉しか知らない道。
花はどんどん進んでいく。
そして少し開けた場所に出た。
町の夜景が目に飛び込んでくる。下には境内が見える。
「ついた。……三人でね。一度ここに来てみたかったの」
花は二人に背を向けたまま言った。
穂乃花は卓哉に聞こえるように小さくつぶやいた。
「ここって」
「ああ。俺たちの秘密の場所」
「なんで花ちゃんが知ってるんだろう」
「分からん」
戸惑う二人を他所に、一筋の光が空に昇った。
そして、上空に大きく花開く。
「きれい」
花はつぶやいた。そしてその場に腰を下ろす。
二人もその両隣に腰を下ろした。
「小さいころお父さんによく連れてきてもらったの。でね、よくここでお母さんのお話して貰ったんだ」
二人は静かに花の話を聞く。
「ここは、パパとママの大切な場所なんだって教えてくれた。お父さんはここで告白されたんだって。お母さんに」
花火の明かりが三人を照らし、風が木々を揺らす。
言葉に詰まったのか花はただ花火を眺めている。
「よし! それじゃここをもっと大切な場所にしよう!」
穂乃花はそう言って急に立ち上がる。
そして足元から小石を拾いこの場所で一番大きな木の側に立つ。
「この場所に私たち三人がいたことを記しておこう」
そして、木に小石でがりがりと『穂乃花』という文字を刻んだ。
卓哉も刻み、花も同じく刻む。
すると花は涙を流した。
「私。もう行かなくちゃ」
何処にと穂乃花が聞く前に、花は木を背にして二人に面と向かう。
「今日は本当に楽しかった」
穂乃花は叫んだ。
「生きて!」
なぜそう叫んだのかは分からない。
でも、そう言ってあげなきゃいけない気がした。
「うん。会えて……良かった。それじゃね。ありがとう。お母さん、お父さん」
花はそう告げると走って行ってしまった。
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