校舎二階に着いた二人は、階段前の大きな掲示板と睨めっこをしている。

 他の生徒もみな同じく鋭い眼差しで掲示板を見る。

 周りでは歓喜の声や残念がっている声が飛び交う。


 穂乃花は卓哉に訊く。


「あった?」

「いいや、まだ見つけてない」


「ちゃんと探してる? AとBには無い」

「んー、Dにはねーな」


 その掲示板はクラス替えの生徒名簿である。AからDまでの四クラス分の名簿。

 毎年の楽しみでもあり恐怖でもある。


「ってことはさ?」

「ああ」


 二人の表情は喜びに変わる。


「Cだ」

「Cだな」


 穂乃花は思わず卓哉に抱き着いた。


「おい」


 卓哉のその声で穂乃花はすぐに離れる。

 

「ご、ごめん!」


 穂乃花は下を向き顔を赤らめた。

 鞄を両手で下げながらくるりと回りC組の教室へ向かう。

 狭い歩幅で卓哉を待つかのように進む。


 卓哉は肩から鞄を下げ左手をポケットに入れながら後を追う。 


 この時穂乃花は飛び跳ねたいほど嬉しかった。

 去年は違うクラスだった卓哉。

 穂乃花は恋をしていた。卓哉と友達にになってからずっと。

 今年こそは告白する。そう心に秘めている。


「早くしないと置いてくぞー! 卓哉ー」

「お、おい」 


 その声で卓哉は少し歩幅を広げた。



 教室に入り新たな席で朝のホームルームを待つ。


 出席番号順に決められた席。

 卓哉は廊下側の列後ろから二番目。穂乃花はその隣の列一番後ろ。卓哉の左後ろの席である。


 穂乃花は席も近いと喜ぶ。

 しかし、一つふと気になることもあった。


 穂乃花の右隣りの席に生徒がいないのだ。

 それ以外の席は皆着席し、落ち着きがないながらも担任が来てホームルームが始まるのを待っている。

 すでに八時半を過ぎ、遅刻となる時間。

 

 そんな穂乃花をよそに教室の扉ががらりと開き先生が入ってくる。


「お。皆きちんと席についているな。今年の二年は優等生揃いか?」 


 先生はそう言いながら教壇に立った。


「私はC組担任の杉山すぎやまです。去年物理とってたやつは知ってるな。まあ一年間よろしく頼むわ」


 と、黒板に名前を書きながら挨拶をした。


「それと転校生を紹介する」


 この一言で教室内が騒がしくなる。

 

 そして穂乃花は気づいた。 

 転校生は絶対私の隣の席だ。と。

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