小さな町。なんの変哲もない小さな町。

 大きな山が一つあり川が流れる。そのふもとにある小さな町。


 そんな町の住宅街を走る少女がいた。


 セーラー服に身を包み鞄を片手に走る。

 後頭部で一束に縛った茶色い髪を揺らし走る。


 少女の名前は清水しみず穂乃花ほのか。今日から高校二年生である。

 新学期早々に寝坊をした穂乃花は、遅刻の危機を逃れるため必死に走る。


 住宅街を抜け大きな街道に出た。

 街道は桜の並木道となっていて春の訪れを知らせる。


 登校中の生徒の群に無事混じった穂乃花は、散った桜の花びらを踏みながら途中のコンビニエンスストアを目指す。


 コンビニに着くと、中で涼みながら手鏡を出し、顔に張り付いた髪の毛を指でつまむ。


 コンビニ内は真新しい制服に身を包んだ生徒も多い。


 そんな中一人の男子が穂乃花に声を掛けた。


「わり。待ったか?」


 その声で穂乃花は手鏡をしまい笑顔で彼の方を向く。


「ううん。今来たとこ。寝坊しちゃってさー、すっごい走ってきたの」

「まあ、お前らしいな」


 二人は今日から始まる新学期への期待を話しながら適当に買い物をする。


 彼の名前は上賀茂かみがも卓哉たくや

 黒髪で長身。穂乃花とは顔一つ程差がある。イケメンというほどではないが整った顔立ち。

 穂乃花とは中学校からの友達である。小学校も同じではあったが、当時は絡むこともなく名前と顔を知っている程度だった。


 コンビニを出た二人は、登校中の生徒の群に交じり再び桜並木を進む。

 ここをまっすぐ行くと、二人の通う高校がある。


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