5
花が帰ってしまい、穂乃花と卓哉は桜並木を歩く。
「私なんか悪いことしたかな。顔が怖かったとかかなー」
穂乃花はがくりと肩を落としながら歩く。
「それはないだろ。いつも通りの笑顔だったと思うけど」
卓哉は頭上の桜を見ながら歩く。
「本当に知らないの? 苗字的に絶対親戚じゃん!」
「何度も言ってるだろ、ほんとに知らない。一応帰ったら親には聞いてみるけどさ。それに、俺の苗字はこの辺りでは珍しいけど、他のとこには沢山いるだろ」
「確かにそうだけどさー」
次の日。その次の日と穂乃花は花に逃げられるように避けられた。
穂乃花は心底傷心していた。
新学期卓哉と同じクラスになれて嬉しかった。席も近い。
でも花には嫌われている。
すべてがいい方向には進んでいなかった。
卓哉曰く親戚にも花という子はいないと伝えられた。
しかし新学期の穂乃花は違った。
こんなことで傷心していては卓哉に告白など出来るわけがない。と。
二週間を過ぎたある日。
一時限目は現国。穂乃花は机から教科書を出し授業の準備をしていると、少し慌てた様子の花が目に入った。
花は机の中を覗きこんだかと思うと、すぐさま横にかけてある鞄を開ける。
これを二三度繰り返した後、何かを諦めたかのように顔を上げた。
そして穂乃花と目が合った。
花はすぐに下を向いた。
穂乃花は分かっていた。花が何をしていたのかを。
「上賀茂さん。机、くっつけようか?」
花は肩をびくりとし、少しの沈黙の後首を縦に振った。
花は現国の教科書を忘れたのだ。
机を隣り合わせに付けた頃チャイムが鳴り、先生が入ってきた。
そして授業は進んでいく。
穂乃花は決心をし、自分のルーズリーフに文字を書いた。
『私の事嫌い?』
すっとその紙を差し出した。
すると花は固まったまま首を横に振った。
穂乃花は何故こんな事をしたのか。
それは単純にほっておけなかったから。花は友達を作れずにいた。
クラスのみんなも最初は花に近づき話しかけていたが、花は口下手なのか話も続かず、しまいには誰も話さなくなっていたからだ。
穂乃花は続ける。
『私と友達になって下さい』
花は戸惑いながらもペンを持つ右手を動かした。
下に二文字書く。
そこには『うん』と、そう書かれていた。
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