花が帰ってしまい、穂乃花と卓哉は桜並木を歩く。


「私なんか悪いことしたかな。顔が怖かったとかかなー」


 穂乃花はがくりと肩を落としながら歩く。


「それはないだろ。いつも通りの笑顔だったと思うけど」


 卓哉は頭上の桜を見ながら歩く。


「本当に知らないの? 苗字的に絶対親戚じゃん!」

「何度も言ってるだろ、ほんとに知らない。一応帰ったら親には聞いてみるけどさ。それに、俺の苗字はこの辺りでは珍しいけど、他のとこには沢山いるだろ」


「確かにそうだけどさー」



 次の日。その次の日と穂乃花は花に逃げられるように避けられた。


 穂乃花は心底傷心していた。

 新学期卓哉と同じクラスになれて嬉しかった。席も近い。

 でも花には嫌われている。


 すべてがいい方向には進んでいなかった。

 

 卓哉曰く親戚にも花という子はいないと伝えられた。


 しかし新学期の穂乃花は違った。

 こんなことで傷心していては卓哉に告白など出来るわけがない。と。



 二週間を過ぎたある日。

 一時限目は現国。穂乃花は机から教科書を出し授業の準備をしていると、少し慌てた様子の花が目に入った。


 花は机の中を覗きこんだかと思うと、すぐさま横にかけてある鞄を開ける。

 これを二三度繰り返した後、何かを諦めたかのように顔を上げた。


 そして穂乃花と目が合った。


 花はすぐに下を向いた。

 穂乃花は分かっていた。花が何をしていたのかを。


「上賀茂さん。机、くっつけようか?」


 花は肩をびくりとし、少しの沈黙の後首を縦に振った。

 花は現国の教科書を忘れたのだ。


 机を隣り合わせに付けた頃チャイムが鳴り、先生が入ってきた。

 そして授業は進んでいく。


 穂乃花は決心をし、自分のルーズリーフに文字を書いた。


『私の事嫌い?』


 すっとその紙を差し出した。

 すると花は固まったまま首を横に振った。


 穂乃花は何故こんな事をしたのか。

 それは単純にほっておけなかったから。花は友達を作れずにいた。

 クラスのみんなも最初は花に近づき話しかけていたが、花は口下手なのか話も続かず、しまいには誰も話さなくなっていたからだ。


 穂乃花は続ける。


『私と友達になって下さい』


 花は戸惑いながらもペンを持つ右手を動かした。

 下に二文字書く。


 そこには『うん』と、そう書かれていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る