4
白髪交じりでボサボサの頭に大きめの眼鏡。
白いワイシャツに紺のニットベストを着た担任杉山は、教壇で転校生を呼んだ。
「
その瞬間卓哉は声を上げた。
「はい! お、俺ですか?」
一瞬クラスが騒然とする。
「ああ、そういえば君も上賀茂だったね」
杉山は少し笑いながら名簿を確認した。
卓哉の反応は違っていない。
この小さな町で『上賀茂』といえば卓哉の家しかないからだ。
穂乃花はそんな卓哉に声を掛ける。
「ねー。私聞いてないけど。同じ苗字ってことは『親戚』でしょ? なんで教えてくれなかったのさ」
卓哉はきょとんとした顔でただ首を横に振った。
そんな二人をよそに、転校生の上賀茂は教室に入ってくる。
クラスの男子が騒ぎ出す中、上賀茂は会釈をし自己紹介を始める。
「上賀茂
か細く透き通るような声だった。
凛としていながらもあどけない顔立ち。背もさほど高くなく華奢なのが腕を見て分かる。
クラスがしんと静まる。
教室の開けられた窓から入ってくる風の音。
隣のクラスの声。
皆上賀茂の次の言葉を待つ。
しかし、それ以上彼女から言葉は出てこなかった。
「ん、もういいのか? 趣味とかそういうのは言わんのか?」
杉山の問いに対してはただ首を横に振った。
「そうか。席は一番後ろの空いてる席だ」
花はゆっくりと自分の席についた。
ホームルームと全校集会も終わり、皆教室で帰りの準備をしていく。
穂乃花は隣で静かに鞄の整理をしている花に声を掛けた。
その声に卓哉も反応し、座ったまま体を向ける。
「ねーねー上賀茂さん。私清水穂乃花。よろしくね」
花は穂乃花の名前を聞いてびくりと肩を揺らした。
「ほ、ほのか……さん?」
花は穂乃花の顔をまじまじを見つめ、手で口を押えた。
目には涙が浮かんでいるようにも見える。
「上賀茂さん?」
穂乃花は花の反応を見て戸惑う。卓哉も眉を下げ不安げな表情になる。
「ご、ごめん! 私なんかしちゃったかな。ごめん」
穂乃花は慌てて謝る。しかし、何かをしたような覚えはない。
「すみません。何でもないです。気にしないでください」
花はそう言って、逃げるように教室を後にした。
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